どの関節でも起こりうることですが、体重を支える肘関節、股関節、膝関節で多く見られます。大型犬では股関節のトラブルが多く認められますが、日本で人気の小型犬では膝関節の異常が多くなっています。さらに椎間板ヘルニアを起こしやすいダックスフンドや、脊椎の奇形が多いパグ、フレンチ・ブルドッグでは脊椎に異常を起こすこともあります。
 
 
関節には関節軟骨というクッションが存在することで骨同士の接触を防ぎ、滑らかに動くようになっています。関節に過剰な負荷がかかると、その関節軟骨が破壊されることにより痛みを引き起こすようになります。さらに関節軟骨が破壊されると炎症反応が誘導されたり、骨の変形が起こったりすることでさらに軟骨が破壊されるという悪循環が引き起こされます。
 
 

【遺伝的要因】

大型犬では股関節形成不全、小型犬では膝蓋骨内方脱臼、パグやフレンチ・ブルドッグでは脊椎奇形などの奇形性疾患が多く見られ、関節疾患の原因となります。また、ダックスフンドやウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどの軟骨異栄養性犬種では、椎間板ヘルニアが起こりやすいとされています。若齢期に直接原因となる場合と、負担がかかり続けて高齢になってから症状が現れる場合があります。

【外傷】

交通事故やけんか以外にも、小型犬だとベッドや階段から飛び降りた際に骨折することもあります。外傷で直接関節を痛める以外にも、患肢をかばうことで反対の肢に過剰な負荷がかかることもあります。

【過剰な負荷】

肥満、過度の運動などにより、関節に過度の負担がかかることで関節に異常が起こります。
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【どのような病気なの?】

膝蓋骨(膝のお皿)は、膝関節の運動をサポートする役割を果たし、通常は大腿骨にある滑車溝というくぼみに収まっています。この膝蓋骨が膝の内側に脱臼することを膝蓋骨内方脱臼といいます。膝蓋骨脱臼の原因には先天性と後天性があります。多くの場合が先天性で、生まれつき膝関節周囲の筋肉、骨または靭帯に形成異常があることが主な要因であると考えられています。トイ・プードル、ポメラニアン、チワワなどの小型犬で発症しやすいと言われています。また、後天性では、打撲や高所からの落下などによる外傷が原因となります。
 

【症状のあらわれ方】

▼初期の場合
脱臼により後肢に力が入らなくなるため、足を浮かせたり、スキップのような歩行になることがあります。脱臼が軽度であれば自分で足を伸ばすことで元に戻るため、症状は一時的であることが多いです。
  ▼重篤化した場合
膝蓋骨の脱臼を繰り返したり、脱臼したままの状態になると、後肢を曲げてうずくまるような状態で歩行するようになります。また、後肢の骨の変形が生じると、歩きづらくなり、さらに進むとほとんど歩けなくなることもあります。


【治療法】

軽度であれば、脱臼の整復後に鎮痛薬などを投薬し、安静にして経過観察します。もし脱臼を繰り返す状態であれば、手術を行う必要があります。また、脱臼を重篤化させないために、適切な体重の維持や生活環境の整備により膝への負担を軽減することが重要です。
 

【どのような病気なの?】

骨盤と後肢のつなぎ目にある股関節の形状に異常があることを、股関節形成不全(股異形成)と言います。股関節形成不全では遺伝的要因が関連していると言われています。その他、成長期における過度な運動や肥満が原因のひとつと考えられています。ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなどの大型犬に発生しやすく、一般的に生後6ヶ月〜1歳半頃から症状が現れます。股関節の形状の異常により関節が不安定となり、変形性骨関節症が起こって、より重篤な症状が現れることもあります。
 

【症状のあらわれ方】

▼初期の場合
腰を左右に振って歩いたり、ウサギ跳びのように両後肢を同時に動かすような歩き方が認められることがあります。また、股関節の痛みにより触られるのを嫌がったり、後肢を引きずることがあります。
  ▼重篤化した場合
階段の昇り降りができなくなったり、元気がなく運動を嫌う(運動不耐性)ようになります。また、変形性骨関節症の進行により、股関節の形状の異常がより重度となり、脱臼することがあります。


【治療法】

適切な体重を維持し、股関節に負担がかからないようにすること、生活環境を整備することが重要です。痛みがある場合には抗炎症薬や鎮痛薬を投与して痛みをコントロールする必要があります。痛みが重度で、投薬しても効果が認められない場合には、手術を行うことがあります。
 

【どのような病気なの?】

椎間板は、背骨と背骨の間に存在し、クッションの働きをしています。この椎間板がつぶれて飛び出し、脊髄を圧迫することを椎間板ヘルニアといいます。軟骨異栄養性犬種(ミニチュア・ダックスフンド、シー・ズー、ウエルシュ・コーギーなど)では、比較的若い頃から椎間板が変性し、クッションとしての機能が低下するため、椎間板ヘルニアが起きやすくなります。また、背骨に過度な負荷が加わって椎間板が飛び出すこともあります。さらに、老化により椎間板が弱くなって発生することもあります。首もしくは腰での発生が多く、首の場合には四肢に、腰の場合には後肢に症状が現れます。
 

【症状のあらわれ方】

▼初期の場合
発症部位により異なります。首のヘルニアの場合には、頭を上げなくなったり、首をすくめて動かなくなるといった痛みの症状や、四肢のふらつきが認められます。また、腰部の椎間板ヘルニアの場合は背中を丸めるといった背部痛の症状や、後肢のふらつきが認められます。
  ▼重篤化した場合
四肢や後肢で体重を支えられなくなり、自力で起立が困難となります。さらに重度になると、四肢や後肢をまったく動かせなくなり、感覚もなくなります。また、排尿や排便のコントロールができなくなることもあります。


【治療法】

軽度の場合には、薬剤を使用して痛みを抑え、安静にします。このような内科療法に効果を示さない場合や、症状が重度である場合には手術を実施します。椎間板ヘルニアを発症しやすい犬種では、背骨に負担をかけないよう生活環境を整備し、肥満を予防する必要があります
 

【そのほか、こんな疾病もあります】

  • 感染性関節炎(細菌、マイコプラズマ、ウイルス関連性など)/ 非感染性関節炎(多発性関節炎、関節リウマチなど)
  • 肩関節脱臼/股関節脱臼/肘関節脱臼
  • 前十字靭帯断裂
  • 大腿骨頭虚血壊死症(レッグペルテス病)
  • 変形性関節症
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  • 足の筋肉が落ちている(左右差がある)
  • 膝が腫れている(左右差がある)
  • 膝のお皿を内側に押すと移動する
  • 膝を押すと、痛みがある
  • 膝を曲げ伸ばしすると、動きが固い
  • 膝を曲げ伸ばしすると、カクッという感触がある
  • 足の筋肉が落ちている(左右差がある)
  • 足を前後に動かすと、痛みがある
  • 足を前後に動かすと、動きが固い
  • 足を前後に動かすと、関節から音がする
  • 足を後ろに引っ張ると痛がる
  • 背中を押すと、痛みがある
  • 尾を持ち上げると、痛みがある
  • 足の甲を地面につけても元に戻すことができない
  • 足の筋肉が落ちている
  • 腰周りの筋肉が落ちている
  • 足先をつねっても痛みを感じない
  • ※愛犬に痛がったり嫌がる様子が見られたら、無理に行わないでください  
     
    上記のチェック項目はあくまで関節トラブルの早期発見につなげるために参考にしていただきたいものであり、該当する項目があるからといって、関節系疾患にかかっていると断定するためのものではありません。何か気になることがあれば自己判断せず、必ずかかりつけの獣医師に相談しましょう。
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    【対策1】体重管理

    体重が増えると関節にかかる負荷が大きくなります。関節への過剰な負担は関節軟骨の摩耗や骨の変形を引き起こします。さらに体重が増えると運動自体を嫌がるようになり、ますます体重が増えて行くという悪循環に陥ってしまいます。また、手術が必要になったときなど、肥満は麻酔をかけること自体のリスクを増加させてしまう点も問題です。

    【対策2】適度な運動

    関節は動かさないとその可動域が減少して行くことが知られています。また、筋肉も使わなければ衰えてしまいます。そのため、関節の機能を維持するためには、適度な運動が不可欠です。さらに、運動量が低下すると体重が増えやすくなる点も注意が必要です。ただし、過剰な運動は逆に関節を痛めることもあるので、愛犬に合わせた運動量を心がけてください。

    【対策3】愛犬の観察

    愛犬の様子をしっかり観察してあげて、異常が見られたら早めに獣医師に相談するようにしてください。例えば高齢になって足がふらつくのが椎間板ヘルニアだったり、階段が上れなくなるのが関節炎の症状だったりということがあります。病気が進行する前に適切な治療を行えば、以前と同じように動けるようになることはたくさんあります。特に痛みを伴うときや、急激な動きの変化は関節トラブルのサインかもしれません。

    【対策1】段差対策

    ベッドやソファーからの飛び降り、階段の上り下りなどの上下運動は平地よりも負荷がかかりやすい場所です。これらの運動時に足を痛めたり、ひどいときには骨折することもあります。その負担を軽くするため、段差の下にはクッションやマットなどで衝撃を緩和する、愛犬の大きさに見合わない高さのソファーやベッドなど飛び降りると危ない場所には上らせないようにするなどの工夫が必要です。

    【対策2】床のすべり対策

    最近は畳の部屋よりフローリングのほうが多いのではないでしょうか?しかし、フローリングなどの木製の床材はイヌにとっては滑りやすい環境です。足が滑ると関節の可動域を超えた負担がかかることもあり、関節トラブルの原因となることがあります。そこで床をすべりにくくする対策が有効となります。

    【対策3】散歩コースの工夫

    中型犬以上になると十分な運動量の確保には散歩がかかせません。いつもの散歩コースを工夫することで、関節の負担を減らし、筋力の増強を図ることも可能です。避けたいのは足を捻りやすい砂利道やクッション性のないアスファルトばかりの道です。理想は芝生などの柔らかい地面や適度な負担になる軽い坂道です。フリスビーやボール投げなどの過度な運動は適切な量にしましょう。

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