神奈川県・黒岩知事に聞く。犬と猫の「殺処分ゼロ」は、なぜ達成できた? これから、どうやって継続する?
神奈川にはさまざまな日本初があります。その中でも、PECOをご覧のみなさんにとって身近な出来事といえば、犬と猫の殺処分ゼロを全国の自治体に先駆けて達成、現在も継続していることだと思います。なぜ、「殺処分ゼロ」を神奈川県は実現できているのでしょうか。その背景を、県知事に伺いました。
- 更新日:
「殺処分ゼロ」を、全国ではじめて達成した神奈川県
『いのち輝くマグネット神奈川』をスローガンとして掲げる神奈川県は、「人と動物とが幸せに暮らせる社会の実現」を目指しています。そうした中、犬は平成25年度から4年間、猫は26年度から3年間殺処分ゼロを継続。これは、全国の都道府県単位の自治体ではじめての偉業です。県知事である黒岩さんは、かつてテレビキャスターや大学教授を務め、自身のライフワークとして「いのちの大切さ」を世の中に訴え続けています。
動物保護の現状に、胸を打たれた
PECO (以下――)
神奈川県が全国の都道府県単位の自治体ではじめて殺処分ゼロを達成したのは、知事が就任されて3年目(平成25年)のことでしたね。達成までの経緯は?
黒岩知事 (以下略)
実は、殺処分ゼロは、私が声を発して成し得たものではないんです。これは、現場のボランティアのみなさんや、県の職員たちが「ペットを救いたい」一心で必死に取り組んだ結果でした。私は、その報告を受けただけに過ぎません。ただ、私はそれに感銘を受けまして。ボランティアのみなさんを表彰して、保護の現場を見に行ったんです。
――平塚市にある、神奈川県動物保護センターですね。
そこでの光景には、とても胸が痛くなりました。動物保護センターで動物を収容する部屋は、大きく5つに分かれています。以前は、保護された日は最初の部屋、当日のうちに引き取り手がないと次の部屋へ、と1日ごとにだんだん移されていく。5つ目の部屋の先は、ガス室になってしまっていたのです。
――つまり、殺処分になる。そこにいたるまで、動物たちには5日しか期限がないわけですね。
そこにいる犬たちは頭がいいのでわかっているんです。「自分がどうなってしまうか」というのが。彼らはとにかく表情が豊かで、「どうにか助けてくれ」という目は心に来るものがあったのだと思います。職員もそれを感じたのでしょう。だからこそボランティアのみなさんと一緒になって、命を救う活動に乗り出したのだと思います。
――ボランティアというのは、どういった方々なのでしょう。
さまざまな年代の、動物を心から愛していらっしゃる方々ですね。直接、意見を交換させていただいたこともあるのですが、みなさん熱い気持ちを持っています。
――普段の動物保護センターは、どんなことをしている場所なのですか。
ボランティアの方々と力を合わせて、引き取った時にはボロボロの子を、きれいに洗って、かみ癖や吠え癖などもちゃんとしつけをし直す。そして、引き取り手を探すんですね。保護と一口に言いましても、すごく手間をかけています。ただし、場所がやや不便なところにあるので、引き取り手がなかなか集まらないことが課題としてありました。
――解決に向けて、知事から提案はありましたか。
はい。「神奈川県庁の本庁舎で、動物の譲渡会をやってはいかがだろうか」と。本庁舎は築88年の歴史的建造物。定期的に一般の方向けに公開イベントを行っていますが、たくさんの方がお見えになります。その日を使っていただけるようにご提案しました。いま県庁舎公開を行うと、譲渡会が一番人気になっています。
――譲渡会はどんな場なのでしょう。
ただ「欲しい」と言えば動物がもらえるわけではないんです。飼い主として正式に登録して、動物との相性なども確かめて。「本当に飼えるのか」など隅々まで調べてからの譲渡なんですね。この厳格さには私自身も驚きました。
――「動物たちに二度とつらい思いはさせない」という、現場の方々の強い意志を感じます。
殺処分ゼロは、1年だけ達成しても後が続かないようでは意味ありません。私たちも全力で後押ししていくうちに、犬は平成25年度から4年間、猫は26年度から3年間殺処分ゼロを継続できています。
動物たちがいきいきと過ごせる、本当の保護センターをつくりたい
――今後も保護活動を続けられると思いますが、譲渡会以外に取り組んでいることはありますか?
動物保護センターの建物が老朽化しているため、建て替えを計画中です。それと併せて、私たちは「動物保護センターという名の殺処分場」のコンセプトを塗り変えます。動物を生かすための施設にしようとしています。
――これまでの施設との違いとは。
たとえば、動物の健康状態に応じて保護できる個室を設けたり、保護した犬が元気に走り回れるドッグランをつくったり。動物たちがいきいきと過ごせて、ボランティアのみなさんも働きやすい施設にしようと思います。スタッフの方々でいろいろアイデアを出し合って検討しているところです。災害時には、家をなくしたり迷子になったりしたペットたちを助けられるような施設にもしたい、といったことも考えていますね。
――そうなると、建て替えの資金はかなりの額になりそうですね。
この件に関しても、殺処分ゼロをみんなで達成したように「みなさんに広く参加していただければ」と、あえて建設費を寄附によってまかなうことにしました。おかげさまで、寄附が集まりつつありますが、目標にはまだまだ遠い状況です。平成31年4月の開設を目指すため来年度の予算編成に向けて、これからも、もっと力を入れていかなければならないと思っています。
――寄附は、どのような方法をとっていますか。
代表的なものとしては、神奈川県のふるさと納税のメニューの一つにあります。また、セゾンカード、UCカードのポイントプログラム『永久不滅ポイント』を通じて、寄附をしていただくなど、いくつかの方法があります。全国どの地域にお住まいでも、ご参加いただけます。
神奈川を起点に全国へ。人と動物のつながり方を進化させていきたい
――これまでのお話から、動物保護センターのあり方も含め、次の時代の動物保護のモデルケースを示そうとされている印象を受けますが。
もう一つ重要なこともあって、保護センターを充実させるだけでこの話は終わらないんです。そもそも、すべての飼い主さんの意志を、「絶対にペットを手放さない」という方向に変えていかなければと考えています。ご自身の課題として、ですね。「ペットを飼う」には大きな責任がともなうことを意識していただきたいです。
――施設の拡充と合わせて、そうした啓発活動も不可欠なんですね。
これから超高齢社会が進んでいきます。特に、独居でペットと暮らす高齢者の場合、体調などによりご自身の意志に関わらず「飼えなくなる状況」が出てくると思うんですね。そういった場合でもペットを手放さないために、事前に相談できる環境づくりにも力を入れてなければなりません。それと、ボランティアのみなさんの善意に頼り過ぎず、補助金などによって永続的に活動をサポートしていく考えです。
――最後に、PECOをご覧のみなさんへメッセージをお願いします。
私が知事になったとき、『いのち輝くマグネット神奈川』をスローガンとして掲げました。人と同じように、動物たちのいのちも輝かせることを目指しています。私たちは、動物にはいつも癒されますし、素晴らしいパワーをいただいています。彼らを保護する精神は、私個人としても大切にしていかなければならないと常々感じています。
――“マグネット”とはどういう意味ですか。
磁力、惹きつける力という意味です。殺処分ゼロに関しても、神奈川県が“マグネット”としてたくさんの人々を集め、一つのモデルをつくり上げたいと考えています。そしてそのモデルが全国に広がっていけばいい、と。それが一番の願いです。PECOをご覧のみなさんにも、さまざまな形でお力をお借りできれば幸いです。