【陽だまりのような温もりが愛しい…】暮らして感じる老犬の味わい
老犬と豊かで濃密な時間を楽しむ本誌読者の皆さんをご紹介。同時に健やかに、穏やかに老いの時間を過ごす工夫や注意点も解説します!(Shi-Ba 2017年11月号 Vol.97より)
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年を取ってきたらますますかわいくなってきた!?
犬は人間よりずっと早いスピードで老いていく。
「白髪が増えてすっかりおばあちゃんになったねぇ」
「角が取れて好々爺になっちゃった」
堂々の寝姿に思わず苦笑したり、転がるように走り回る姿に慌てたり、大胆不敵ないたずらに唖然としたり……。そんな愛くるしい時代はつい、昨日のことのよう。
まさに光陰矢の如し。気が付けば、寝ている時間が長くなり、散歩の歩みは遅くなり、食欲も落ち、生活すべてがスローペース。陽だまりのような優しい笑顔は老いてこそ。そして、家族みんなを包み込むような落ち着きぶりに尊敬の念すら感じるのは老犬ならでは。
そこで、老いた愛犬と共に同じ時を重ね、穏やかに、健やかに暮らす本誌読者宅を訪ねました。
老いも悪くない……。きっとそう思えるに違いありません。
いつも触れ合い、一緒に過ごす超スイートな毎日!
暮らして感じる老犬の味わい 01
東京都/加藤犬太(オス・20歳)
穏やかで優しく、何をされても怒らない性格は年を重ねても変わらない。
大きなボールが好きで元気いっぱいに走り回っていたが半年前から歩けなくなり、今はほとんど寝たまま。
食事
旺盛な食欲は健在!
動物病院指定のアレルギー療法食のドッグフードを手で一粒ずつ口元に持っていくとおいしそうにモグモグ。水も少量ずつスプーンで与えている。ただし、オヤツは与えない。
睡眠
みんなの声を聞きながらzzz…
リビングのベッドで1日中寝ているが、1時間に1回、床ずれ防止のために体勢を変えてあげる。かぶれ防止のためオムツはしていない。
コミュニケーション
ベタベタ触っていたいの!
家族中で声をかけながら常にスキンシップ。体を触ることで体調の変化に気付きやすく、病気の早期発見にもつながると言う。
散歩
五感が刺激されて最高なんだよ♪
体調が良く、お天気の日にはカートに乗って、ちょっとだけそよ風に当たる。犬太は頭をグッと持ち上げて、ご機嫌。気持ちいいね!
犬太の味わい年表
今までも、これからもずっと家族のアイドル!
9月22日で20歳を迎えた犬太はツヤツヤの毛並みと骨太の体格が見事。
「4年ほど前からお漏らしが始まり、犬太の老いを実感するようになりました」と、加藤家の次女の繭美さん。
生後4ヶ月で加藤さんご一家に迎えられた犬太は、かしましい4人姉妹の弟のような存在として超過保護にかわいがられて育ったそう。犬太は甘えん坊で抱っこが大好き。
よく食べ、よく遊び、休日には父親の功さんと長時間の散歩をこなしたと言う。しかし、半年前から歩行が困難になり、今はどうにか立たせると自分で排尿できる程度に。老いは突然やって来た。
「脇腹や背中に腫瘍ができたり、てんかんの発作が起きたり、腎臓の機能が低下してきて、薬が欠かせない状態です」と、母親の千恵子さん。
「年と共に顔がどんどんかわいくなってきて、表情や仕草が穏やかで、犬太といると幸せな気分になれるんですよね」と、四女の留美さん。
「いっぱい食べますから、まだまだ頑張れると信じています!」
きっと、家族みんなのエールが明日への活力になるに違いない。
暮らして感じる老犬の味わい 02
千葉県/地土井まめ(メス・14歳)
忠実で健気な番犬として家族を守り、ちょっと気性が荒くお転婆娘だった一方、家族には甘えん坊なツンデレタイプ。
年を重ね穏やかになり、ネコのように丸くなってきたとか。
散歩
ショート散歩継続中!
1日2回、朝と夕方の30分ほどの散歩が日課。段々散歩の距離が短くなり、最初はトボトボ、帰りは猛ダッシュ。どうやら、帰宅後のごほうびのオヤツがお目当てらしい(笑)。
健康
ずっと元気でいてほしい! 病気予防は万全の対策で
老化による認知症、関節、心臓病予防のためにサプリメントは必要不可欠。失明の危機に陥った昨年以来、1日2回の点眼は必須。
コミュニケーション
スキンシップをして絆をより強固にする
超甘えん坊のまめは、家の中では家族の誰かと常にベッタリ~。父の宏二さんのぬくもりを感じながらくつろぎ、微睡む至福の時間が何よりも好き。
食事
手作りスープで水分を補う
鶏の手羽元やブリ、サンマ、サバなどを茹でてスープを作り、その中にドッグフードを入れて食べやすくする工夫をしている。
運動
毎日の積み重ねが丈夫な肉体を作る
年を取っても適度に体を動かすのは大切なこと。散歩後、マイドッグラン状態の庭先で猛ダッシュしたり、穴掘りをしたり自由きままに遊ぶまめ。
まめの味わい年表
健康な毎日を願ってまめファーストを実行中!
生後3ヶ月で地土井さんご一家の元にやって来たまめは、気性が激しく、ちょっと頑固で他者を決して受け入れない徹底した番犬タイプだったそう。
「ヤンチャ過ぎて、家族全員、まめのおかげで血を流しました(笑)」と、長女の安芸子さん。
そんなまめも14歳。勇壮活発な姿は影を潜め、穏やかで甘えん坊で寂しがり屋に変身。
「13歳を過ぎた頃から吠えなくなり、動作や反応が鈍くなってきました」と、母親の明美さん。
子宮蓄膿症の手術や眼球の虹彩部分にイボが見つかるなど病気が増えたのも13歳を迎えてからだった。現在は1日2回の点眼薬を投与しながら、4ヶ月に1回眼科検診を行い、体調の変化に気付いたらすぐ動物病院へ。
「食事には多少お金をかけ、食欲をチェックしています。それと適度な運動も必要ですから散歩も欠かせません」と、安芸子さんは、毎日実行することが健康な体を作る基本だと語った。
手間はかかるが、それは少しも苦痛なことではなく、まめと過ごす濃密な時間を楽しんでいるのである。
暮らして感じる老犬の味わい 03
栃木県/星野 楓(メス・13歳)
聞き分けが良く、温厚で柔和。どこを触られても怒ったり、吠えたりしない楓は、知らない場所で大勢の人たちに囲まれても臆することもなく、むしろ喜々としているとか。
お手入れ
こまめに清潔を保つ
1~2ヶ月に1回のシャンプーは固まって震えるほど大の苦手だが散歩後や庭で遊んだ後の足拭きはスンナリ素直に身を委ねる楓。
「早く家に入りたいからササッとね!」
睡眠
寝る子は育つ!?
十分、育ってますよ〜
リビングの窓際で日向ぼっこしながら1日中睡眠をむさぼる楓。
夜、眠れなくなっちゃうよ~。
散歩
楓のペースでゆっくり…
1日2回、朝と夕方に20~30分の散歩を実践しているが、なかなか歩かずにすぐ帰りたがる楓。
一歩も動かず手こずることもあるんです~。
コミュニケーション
あ・うんの呼吸でキャッチ!
大好きな赤いボールでキャッチボール遊びに興じる。遊びながら楓の体調をしっかり観察します。
遊び
洋服を着たらお出かけだよ~♪
梓さんお手製の洋服を着てお出かけ。旅先ではガンガン歩き、元気いっぱい。コスプレした楓は観光客の注目の的。
愛嬌を振りまいて絶好調!
楓の味わい年表
ストレスフリーが病気を寄せ付けない!?
今から13年前、当時小学校2年生だった長男の辰裕さんが一瞬で心を奪われ、星野さんご家族の一員として迎えられた楓。温厚でマイペースでフレンドリーな性格は年を重ねても変わることはないと言う。子犬時代は、留守番が苦手で腹いせに、庭に設置した犬小屋の屋根や自転車のサドルをボロボロにしたり、庭から脱走してご近所の家でちゃっかり遊んでいたり、お転婆ぶりを発揮したとか。
「ここ数年、体全体が白っぽくなってきて年を取ったんだなぁと感じますね」と、奥様の梓さん。
「散歩も2~3年前までは引っ張る力が強くて自転車を使っていましたが、今は、なかなか歩いてくれません」と、ご主人の裕之さん。
そんな楓は昨年、背中に腫瘍ができたものの無事完治。以降は病気知らずで健康そのもの。家の中ではケガ防止のためにカーペットを敷いたり、太らないようにシニア犬用のウェットフードを与えるなど年齢に則した対応をしているそう。そうして、体調に注意しながら楓と一緒に旅行を続けたいと、まだまだお楽しみは尽きない。
老犬の変化を知る
老犬と楽しく暮らすコツを高崎先生に聞いてみました!
柴犬の平均寿命は14~15歳。個体差もありますが老犬と言われるのは11歳くらいからです。体全体が白っぽくなる、視力が衰えた、食欲が落ちた、食の嗜好が変わった、散歩に行きたがらない、段差を怖がる、反応が鈍い、通院が増えたなど、老いによるさまざまな兆候が現れてきます。
そんな兆候が現れたら、愛犬からのサインだと受け止めて快適に安全に過ごせる環境作りを始めましょう。階段の上り下りを避け、下の部屋のみを愛犬の居住空間にする、段差をなくしたり、スロープを使ったり、床にはカーペットを敷くなど安全第一の工夫をするといいでしょう。介護グッズを上手に利用するのもおすすめです。そして、愛犬に合った適度な運動も習慣化しましょう。また、手作り食、ドッグフードなどバランスの良い適量の食事も健康を維持するのに重要です。
ヤンチャ坊主だったあの頃…
今は天使のような微笑みで傍らに眠る
ずっと一緒に生きてきたキミが愛しい
老犬になると病気のリスクが高まり、特に柴犬の場合、僧帽弁閉鎖不全症、甲状腺機能低下症、子宮蓄膿症、腫瘍、白内障、認知症などにかかりやすくなります。早期発見、早期治療のためにもかかりつけの動物病院で半年に1度の定期健診、1年に1度の血液検査を行ってください。もちろん体調の変化に気づいたらすぐに動物病院へ行くことも忘れずに。また、何でも相談できる信頼のおける獣医師がいると安心です。
できるだけ毎日の生活の中で、健康寿命を延ばすことを心がけましょう。それには、病に備えるために生活習慣を見直し、病気の予兆を発見するために定期的な検査を怠らず、体のバランスを整えるために漢方などを取り入れてみるのもいいでしょう。
老犬との暮らしには、飼い主さんと愛犬の間に安心感や心地よさが漂っています。ずっと一緒に過ごせた幸せ、大変だがお世話ができる幸せ、必要とされている幸せを大いに実感できるに違いありません。だからこそ、できる限りのことはすべてやってあげて悔いを残さないことが大切です。
Text:Masako Komuro
Photos:Masayuki Satoh、Mariko Nakagawa、Minako Okuyama
監修:高崎一哉先生
高円寺アニマルクリニック院長。
治療のみならず、食事や飼育環境の改善など飼育指導にも積極的に取り組み、ドッグトレーナーと連携してしつけの指導にも力を入れている。
高円寺アニマルクリニック
東京都杉並区高円寺南2-14-14
☎03-3311-1014
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