猫びより
【猫びより】【ウチのコへんてこ自慢】飼い主の人生を変え、我が道を行く「ぶさお」(辰巳出版)

【猫びより】【ウチのコへんてこ自慢】飼い主の人生を変え、我が道を行く「ぶさお」(辰巳出版)

「ストーブにあたる猫」として、一躍人気猫となった「ぶさお」。元ノラだった彼を「悟ったおっさん」と評する飼い主は、「そんなぶさおが僕の人生を変えた」と語ります。(猫びより 2020年1月号 Vol.109より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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ドロボー猫だった過去

丸ストーブの土台にちょこんと揃えてかけた、短めの太い前足。オレンジ色に染まり、ぬくぬくと幸せそうな丸っこい体、大きな顔。

7年前、エンジニアである飼い主の丹竜治さんによってその姿がTwitterで流されるや、またたく間にぶさおは世の人気者になった。ぶさおはストーブ周りが好きで、そばでよく寝そべっているのだが、その日は、ふと見ると両手をかけてあたっていたのだという。以来、“ストーブ猫”は丹家の冬の風物詩となり、ぶさおファンも増えていった。

一躍ぶさおの名を有名にした“ストーブ猫” 写真(写真提供:丹竜治)

一躍ぶさおの名を有名にした“ストーブ猫” 写真(写真提供:丹竜治)

テレビや週刊誌の取材も来たし、直接会いに来るファンもいた。そのたびに言われたものだ。「ちっともブサくないじゃないですか」と。そう、ぶさおは、むしろ男前の部類である。

丹さんは笑って言う。
「いや、顔というより、声がブサイクだったんですよ。現れたときから、若いくせにつぶれたようなだみ声だった。それで、こいつは『ぶさおだな』と」

よっこらしょ。毛づくろいにはお腹がちょっとジャマ

よっこらしょ。毛づくろいにはお腹がちょっとジャマ

ぶさおが、北茨城に住む丹さんの家の周りをウロウロし始めたのは、10年近く前のこと。当時飼っていた猫の餌を盗み食いにやってくる、痩せたドロボー猫だった。薄汚れた古い首輪をしていたので、捨て猫だったと思われる。オス猫同士のケンカでいつも傷だらけ。足を引きずっていたり、血まみれだったり、ときどき虐待にも遭っていたようだ。
「あるとき、赤いペンキを塗られて、血だらけでふらふら歩いててね。いつもは追っ払っていたんだけど、さすがに可哀そうで、『来い』と言ったら、素直に寄ってきたんです」

近在のフェルト作家さんが作ってくれたぶさお人形

近在のフェルト作家さんが作ってくれたぶさお人形

共に震災を体験

その日から、ぶさおは丹さんの家に出入り自由となり、我が物顔で餌を食べに通い、夜は丹さんの部屋で寝ていくようになった。

ぶさおが居候猫となった2010年からの一年間は、丹さんにとって人生の大転換が続いた。父の死、離婚、そして、3・11東日本大震災。家が半壊して建て直す間、借家にぶさおも連れて行かなければならず、ぶさおは完全室内飼いとなった。

人間でいえば、五十路辺りの、まだまだ男盛り

人間でいえば、五十路辺りの、まだまだ男盛り

捨てられて、身一つでさまよい生き抜いてきたぶさお。居候から室内飼いへという環境の大変化も、彼なりの覚悟はあったにせよ、淡々と受け入れたぶさお。そんなぶさおを見るにつけ、丹さんは思う。
「悟っているなあ。人間臭いなあ。背中にチャックがあって、かなり悟ったおっさんが入っているんじゃないか」

窓外の山々をボーっと眺めるのが好き

窓外の山々をボーっと眺めるのが好き

ぶさおと出会い、共に震災を体験することで、丹さんは「人生がまるで変わった」と話す。もともと、水辺のごみ拾いなどのボランティアは続けてきたが、ぶさおに会うまでは、捨て猫・虐待の防止や殺処分ゼロまでは気にも留めなかった。それが、気になるようになった。さらに、震災後、明日死んでも後悔しない生き方をしようと思い始めたという。
「あの傷だらけのドロボー猫が、僕のそばでさまざまな和らいだ表情を見せてくれる。捨て猫でもノラでも、こうして幸せになれることを伝えたくて、そしてその幸せをおすそ分けできればと思い、『ぶさお寄金』を作りました」

ちゅ~るには我を忘れる

ちゅ~るには我を忘れる

ぶさカレンダーやぶさマイド、ぶさコースターなどオリジナルグッズを販売し、その売り上げが環境保全や動物愛護啓蒙、TNR(※)などの活動資金になっている。

※TNR:飼い主のいない猫を捕獲(Trap)、避妊去勢手術(Neuter)、元の場所に戻す(Return)ことで一代限りの生を見守ること。

似た者同士

ぶさおは確かにおっさん臭い。夕日を眺める丸っこい大きな後ろ姿にはたそがれ感が漂う。太い前足をドテッと開いて座る。ヘソ天で、正体もなくその辺に転がる。呼びかけてもシッポで返事をする横着ぶり。顔デカ過ぎて、振り向くと頬がよじれる。お腹が出すぎていて、下腹部の毛づくろいに難渋する。

その反面、なんとも可愛らしい面もこっそり持っているのだ。「ぶさ」とやさしく呼ぶと、子猫のように首をかしげる。肉球は初々しいピンク色だ。丹さんやお母さんが仕事から「ただいま」と帰ってきたときは、入り口で仰向けの甘えポーズで迎える。

「抱っこはオレのキャラじゃない」と苦み走るぶさお

「抱っこはオレのキャラじゃない」と苦み走るぶさお

ぶさおを丹さんが抱きあげたときに気づいた。それまで男らしく無骨に思えた丹さんの、目が純朴で優しい。「え? もしかして、似た者同士?」と、思わず声が出た。丹さんは笑って答える。
「いや、ぶさおとは、価値観も態度も似ていて、兄弟ではないかと。そもそも、見計らったようにぶさおがこの家にやってきたのも、何か使命を持ってやってきたように思えてならないんです。僕を支えるためにやってきたんじゃないかな」

秋田犬の凛くんも、貫禄負け

秋田犬の凛くんも、貫禄負け

ぶさおがまだまだ悟りきってはいないことが発覚したのは、2年前に、釣り仲間から秋田犬の凛(りん)をもらい受けたとき。
「ふだんはそんなことしないのに、凛に嫉妬する余り母の膝に乗っていったんです(笑)」

ぶさおは、丹さんの恋のキューピット役も間接的に果たした。ぶさお寄金やボランティア活動を通して、動物たちの幸せを一緒に支えていける女性と丹さんは出会えた。

へんてこのままで

丹さんが震災後に迷いなく人生を変えたように、ぶさお自身も、注目を浴びてから性格が変わったという。それまでは、来客があると、2階の奥に逃げていたのに、取材に馴れてプロ意識も出てきたのか、愛想がよくなった。

丹さんの足元で、ごっろーん

丹さんの足元で、ごっろーん

一風変わった飼い主と、一風変わった猫と。

出遭うべくして出遭ったふたり。一風変わっていることを「へんてこ」というならば、猫はみな、へんてこな生き物。生まれ持ったそれぞれの愛すべきへんてこさを、気の許せる庇護者の元でのびのびと発揮できることこそ、最高の猫生ではないだろうか。

今冬の初ストーブ。うれしくて、ずっとそばに

今冬の初ストーブ。うれしくて、ずっとそばに

それにしても、ストーブ猫で名の出たあの写真に比べ、うとうとしているぶさおの前にあるストーブがやけに小さく見える。
「ストーブは同じなんだけど、ぶさおがデカくなったのかなあ。8キロくらいあるもんなあ」と、丹さんが呟いた。

Twitter:@tanryug
Instagram:tanryug
Facebook:@busaophoto

★丹さんが立ち上げた、ペットの幸せを考える啓発ボランティア団体
「PlusわんにゃんProject」
Facebook:@PLUSWNP

文・佐竹茉莉子 写真・芳澤ルミ子

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