猫びより
【猫びより】【赤ひげ先生インタビュー】本池 俊二(辰巳出版)

【猫びより】【赤ひげ先生インタビュー】本池 俊二(辰巳出版)

(猫びより 2020年9月号 Vol.113より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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子犬の面倒を見る保護猫「くまお」

「清澄白河アニマルクリニック」は、東京メトロ半蔵門線「清澄白河駅」から徒歩30秒、清洲橋通り沿いにある。

入り口を入ると正面が待合室で、左側が受付、その左隣が主に猫の診察室。奥には処置室と入院室があり、そこで迎えてくれたのが病院猫の「くまお」(推定4歳♂)だ。なかなかのイケメンなくまおは、子猫の頃、交通事故に遭い倒れているところを動物看護師さんに保護され、以来、病院猫として暮らしている。

本池先生と病院猫のくまお

本池先生と病院猫のくまお

くまおの担当は、子犬のお世話係。あとで詳しく記すが、清澄白河アニマルクリニックでは、定期的に「パピークラス」(子犬のしつけ方教室)や「キトンクラス」(子猫のしつけ方教室)を実施していて、そこにやってくる子犬と子猫を慣らすのがくまおの大切な仕事だ。

「くまおは子犬に耳をかじられてもじっと耐えています(笑)。事故で下半身不随になってしまいましたが、前足で歩くのも早いですし、排泄も自分でできるんですよ」と本池先生。

ハンデをものともせず、適材適所で働く「くまお」は、クリニックになくてはならない存在だ。

もう一匹の美猫の黒猫「シモン」(6歳♂)は、動物看護師さんの愛猫で、今日は健康診断のために来院したそうだ。

診察を受けるシモン。ちょっと緊張気味?

診察を受けるシモン。ちょっと緊張気味?

アニマルセラピーと出会い 獣医師を目指す

「子どもの頃から猫や犬が大好きだった」という本池先生は、高校を卒業後、動物飼育の専門学校に進学。「学校で動物のことを学ぶうちに『医療に携わりたい』という思いが強くなりました。父が医師で子どもの頃から医療が身近にあったこと、学校で学んだ“アニマルセラピー”に影響され、獣医師を目指しました」。

アニマルセラピーとは、動物とのふれあいから、人が心身の健康の質を向上させる療法のこと。細かくは「動物介在療法」(精神科医や臨床心理士などによる治療の中で、動物が役割を果たす)や「動物介在活動」( 高齢者施設、病院、児童養護施設などで、人が動物とふれあうことで心身を健康に導いたりQOL/生活の質を向上させる)などがある。

やや体重オーバーが気になるくまお

やや体重オーバーが気になるくまお

「アニマルセラピーでは、人が癒されたり健康になるために、猫や犬などの動物たちが協力してくれます。そんな動物たちの健康を守りたいという想いから、専門学校を卒業後、猛勉強の末、獣医学部に入り、29歳で獣医師になりました」。その後、東京大学附属動物医療センターでの研修や臨床医として経験を積み、清澄白河アニマルクリニックを開院することになる。

2018年11月には院内をリフォームし、そのタイミングで、「キャット・フレンドリー・クリニック(CFC)」(※注1)の高度基準である「ゴールド」を取得。

本池先生と動物看護師の内藤さんは「JSFM認定CATvocate(猫の専任従事者)」(※注2)としての認定を受け、スタッフの技術や知識(ソフト面)と病院の設備(ハード面)ともに、猫に優しい病院であることに高度な基準を満たした動物病院であることを証明されている。

※注1 キャット・フレンドリー・クリニック(CFC/Cat FriendlyClinic):猫にやさしい動物病院の道しるべとして、国際的な猫の医学会「isfm」によって確立された国際基準の規格。本部は英国。
※注2 JSFM:ねこ医学会。isfmの公式な日本のパートナーとして活動を行う。

子猫(子犬)を迎えたらまずは相談して欲しい

現在、本池先生が診療と合わせて力を入れているのは、子猫と子犬が幸せに暮らすために必要な健康管理や幸せな暮らし方を飼い主さんに伝えるための教育だ。「もともと猫や犬を人間社会に引き入れたのは人間ですから、人には猫や犬を幸せにする義務があると思います。飼い主さんは、彼らを幸せにするために、子猫や子犬を迎えたときから正しい育て方や健康管理についての知識を得ておくことが大切で、そのためのお手伝いとして、子猫や子犬のクラスを開催しています」。

SFM認定CATvocate認定プログラム修了証

SFM認定CATvocate認定プログラム修了証

開催当初はパピークラスのみだったが、のちにキトンクラスもスタート。一般的なクラスと異なるのは、猫や犬の健康を熟知した獣医師や動物看護師が担当していること。男性獣医師初の「JAHA(公益社団法人日本動物病院協会)認定こいぬこねこ教育アドバイザー資格」を所持する本池先生や動物看護師の工藤さん、そして資格取得に向けて勉強中の動物看護師さんなど、同じ志と目的を持ったスタッフによる指導は、食事や排泄、甘咬みなどといった基本的なことから健康管理や病気の予防のことまでと幅広く、初めて子猫や子犬を迎えても安心して育てられる。

JAHA認定こいぬこねこ教育アドバイザー認定証

JAHA認定こいぬこねこ教育アドバイザー認定証

「人間が赤ちゃんを育てるときは、産後まもなく産院で、授乳、オムツ替え、沐浴、抱っこの仕方などの育児指導を受けたり、退院後は乳幼児健診で育児相談をしたり、病気については小児科医に相談したりしながら、大切なわが子を育てます。そうしているうちに子どもを通したコミュニティができたりしますよね。

人も猫も犬も同じ生き物なのに、人間のような手厚い育児支援がないというのは、なんとも不自然な気がして……。また、学生時代から思い描いていた“猫も犬も人も幸せなアニマルセラピー”のために『人とのコミュニケーションが好きな猫や犬を育てたい』という思いもありました。子猫や子犬を迎えたら、育て方、病気、健康管理など、科学的な根拠に基づいた知識や情報を提供します。一緒に子猫や子犬を育てていきましょう」

キャット・フレンドリー・クリニック・ゴールドの認定書

キャット・フレンドリー・クリニック・ゴールドの認定書。名実ともに猫にやさしい病院

そんな本池先生のメッセージは多くの飼い主さんに伝わり、現在、週に1度のパピークラス、2週に1度のキトンクラスは、どちらも人気だ。

また、シニアクラスも現在単発で実施している。こちらは「JAHAシニアケア講座」を修了した動物看護師さんが指導にあたり、月に一度、理学療法士と一緒にリハビリを行うなど、パピーやキトンと同じように定期的なクラス化を準備している。

「好きで始めた獣医師という仕事ですから(笑)。子猫・子犬期には彼らが健康に育ち、人と幸せに暮らすための土台を作り、シニア期では様々な悩みや問題を解決しながら、動物と飼い主さんが寄り添い暮らせるような支援ができたらと思います。

様々な資格や技能を持つ優秀なスタッフさんたちと

様々な資格や技能を持つ優秀なスタッフさんたちと

時々、可愛がっていた動物を亡くすと『つらすぎて、もう二度と飼いたくない』という方もいますが、そんなふうに動物を断ち切るのではなく、飼い主さんが『この子と暮らせて幸せだった』と思い、『また猫や犬を飼って、キトン(パピー)クラスから参加したい』と思ってもらいたい……。そのためのサポートを、かかりつけ医として長く続けられたらいいなと思います」

清澄白河アニマルクリニック

清澄白河アニマルクリニック


東京都江東区白河1-6-15 TEL 03-5245-2721
診療時間/9:00~12:00、16:00~19:00
休診日/水曜午後
※予約制。詳細はホームページをご覧ください。
http://k-sac.com

Motoike Toshihito
日本獣医生命科学大学卒業後、東京大学動物医療センター外科系診療科、及び内科系診療科修了。千葉県内のグループ病院で副院長、都内複数の動物病院の院長代理、東京大学農学部特別支援員を兼務。1993年、「清澄白河アニマルクリニック」開院。「JAHA認定こいぬこねこ教育アドバイザー」、「JSFM認定CATvocate獣医師」。

取材・文 西宮三代
写真 平山法行

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