【獣医師監修】犬の溶血性貧血によって考えられる原因や症状、治療法と予防法
犬の溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)とは、私たちが想像する貧血のイメージ以上に複雑なメカニズムを持ち、その発症の原因も様々です。しかも、犬の場合は致死率が高いことから、早期発見・早期治療が重要になります。
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監修:ますだ動物クリニック 増田国充院長
犬の溶血性貧血の原因
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動物の全身を流れている血液の中でも、とくに重要な役割を果たしているのが、酸素を全身に送り届ける機能を持つ赤血球です。この赤血球が、何らかの原因で破壊され機能しなくなってしまうことを「溶血」といい、この溶血が起こることで、赤血球が不足してしまう状態を「溶血性貧血」と呼んでいます。
犬の溶血性貧血の原因は様々ですが、その中でも内的要因で起こるのが「免疫介在性溶血性貧血(めんえきかいざいせいようけつせいひんけつ)」です。
免疫介在性溶血性貧血は自己免疫性溶血性貧血(じこめんえきせいようけつせいひんけつ)とも呼ばれ、犬の血液内の白血球が赤血球を攻撃することで起こります。この病気は遺伝的疾患のひとつで、アイリッシュ・セッターやコリーなどの犬種で起こりやすいといわれています。
そのほか、溶血性貧血の原因としては、ネギ類など犬にとって有毒な食べ物の成分によるものや、犬レプトスピラ症などの感染症、外傷などがあります。
犬の溶血性貧血の症状
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犬の溶血性貧血の症状は、軽度であれば、元気がなかったり食欲がなかったりする程度です。いつもは活発に動き回っている犬が、遊んだり運動すること自体を億劫がっている時は溶血性貧血の可能性があるので、動物病院で診てもらった方がよいでしょう。
症状が悪化すると、黄疸が出たり、歯茎が白くなったりするなど、様々な症状が現れます。赤血球は全身に酸素を送り届ける機能を持っているので、赤血球が破壊されると酸素がカラダに行き渡らなくなり、呼吸が荒くなり心拍数も上がります。加えて、肝臓、腎臓、脾臓、リンパなど全身の機能の低下を招き、心不全を引き起こす可能性もあります。
溶血性貧血が疑われる場合は、その症状の程度にかかわらず、速やかに獣医師の診断を仰ぎましょう。
犬の溶血性貧血の治療方法
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犬が溶血性貧血になった場合は、安静にした状態で内科治療を施します。また、ネギなどの中毒を起こす食べ物や医薬品などの異物を摂取したことがわかっている場合は、それらを取り除く治療を同時に行います。
場合によっては、輸血や外科手術といった処置が必要になることもあります。外科手術は犬へのダメージが大きいので、早期発見により重症化を防ぐことが重要です。犬の溶血性貧血は、悪化すると命に関わるため、慎重な治療が求められます。
犬の溶血性貧血の予防方法
犬の溶血性貧血は、飼い主が気づかずにそのまま放置してしまうと、原因不明のままどんどん体調が悪化していき、数週間後には命を落としてしまうというケースがあります。
最悪の結果を防ぐためには、普段から犬の状態をチェックしておく必要があります。少しでもいつもと様子が違うようであれば、すぐに動物病院に連れていきましょう。また、この病気は遺伝性の場合もあるので、定期検診を受けるというのもひとつの方法です。
ネギ類による中毒や薬物によって起こる溶血性貧血を防ぐためには、誤飲・誤食が起こらないような環境作りが重要です。とくに、ネギ類は様々な食品に含まれているので、人間用の食べ物は犬に与えないようにしましょう。
そして、犬が中毒症状を起こしそうなものは、犬が届かない場所に保管するようにしましょう。万が一の場合に備えることで、溶血性貧血以外の病気やケガも防ぐことができます。
溶血性貧血は犬の命に関わる恐ろしい病気ですが、初期の段階では症状が軽いこともあり、飼い主もなかなか気づかないかもしれません。しかし、愛犬の健康を守れるのは飼い主だけです。日頃から愛犬の様子をしっかりと観察し、早期発見・早期治療に努めましょう。