【ドッグトレーナー監修】犬のしつけは、「怒る」から「叱る」へのシフトでうまくいく!

【ドッグトレーナー監修】犬のしつけは、「怒る」から「叱る」へのシフトでうまくいく!

犬のしつけの中で時には怒ってしまいたくなるときもあると思います。 しかし、間違った叱り方では犬に正しく伝わらず、場合によっては状態を悪化させるだけではなく、犬との信頼関係が失われてしまう可能性もあります。 そこで今回は、正しい犬の叱り方について解説します。

  • サムネイル: PECO編集部
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犬のしつけ「怒る」ではなく「叱る」

犬のしつけ「怒る」ではなく「叱る」


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子供の教育でも聞いたことがあるかもしれませんが、犬のしつけも子供の教育と同様に、「怒る」のではなく「叱る」ことを意識することがとても大切です。

「怒る」と「叱る」は同じ意味で使われることも多いですが、実は違います。

犬のしつけ「怒る」

怒るとは自分の感情を表現するもので、相手のためにというよりは自分の腹立たしさや興奮して気持ちを荒立てることをいい、ただ単に自分の怒りの感情を相手にぶつけるような行動をとります。

犬のしつけ「叱る」

叱るとは相手の良くない言動をとがめ、良い方向へと導くことをいい、冷静に相手のためを思った行動をとります。

このように「怒る」と「叱る」では行動表現が変わってきます。

間違った行動を犬に伝わるように教えることは、言葉が通じない分とても難しいことです。
そのため、間違った行動を叱ってやめさせる前に、どんな行動をしてくれれば望ましいのかを冷静にもう一度考えなおし、その行動を褒めて教えてあげることが重要です。

犬を「叱る」のは危険が伴う時

「叱る」というのは「相手の良くない言動をとがめ、良い方向へと導くこと」と説明しましたが、実は犬自身には「良いこと」や「悪いこと」などの概念がありません。

犬が人のように善悪の判断をおこなうのは難しい

脳には、大脳新皮質という言語を理解したり論理的に思考したりと言った「知性」を司る部分があります。
さらに大脳新皮質はその部位によっても機能が異なりますが、特に前頭葉という部分は、計画的に物事を進めたり、モラルやルールを守ったりするために善悪の判断をする機能を司っています。

人はこの前頭葉が非常に発達していて、大脳新皮質の30%を占めていますが、犬はたったの7%ほどしか占めておらず人ほど発達していないため、犬に人のように善悪の判断を求めるのは非常に難しいことです。
そのため、犬が褒められたと認識するのは、「自分にとって楽しかったり」「うれしいこと」が生じること。
また、叱られたと認識するのは自分にとって「不安だったり」「怖いこと」が生じたからで、叱られることで飼い主にとって望ましくない行動をやめるのは、犬が飼い主に対して恐怖を感じているからです。

犬のしつけは「褒めること」が大事!

脳には、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化する報酬系回路と、恐怖や不安、不快などを感じた際に活性化する嫌悪系回路があります。
報酬系回路が働くと、ドーパミンという快楽物質の分泌が促され、やる気や活力が向上します。
犬のしつけは褒めることが大切だと聞いたことがある人も多いと思いますが、犬の報酬系回路と嫌悪系回路の割合は、報酬系回路:嫌悪系回路= 8:2という点からも、犬のしつけでは望ましい行動をした際にご褒美を与えやる気を高めてあげることが効果的です!

トイレのしつけで大切なのは「成功体験」「環境設定」

例えば、犬がトイレシート以外のカーペットや洗濯物の上で排泄をしてしまった場合、飼い主としては本来そこではしてはいけないことなので、ついつい叱ってしまいたくなるかもしれません。しかし、前述したように犬には悪いこととは理解できないため、ここで叱ってしまうとただ単に飼い主に対する恐怖心を抱くだけになってしまいます。

犬のしつけは「褒めること」が大事!


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そもそも、「カーペットや洗濯物の上でしてはいけない」というのは飼い主が決めたことで、犬にしてみれば「フカフカと土のように踏み心地がよかった」ためにトイレと勘違いしてしまっただけです。

トイレを覚えないと叱っても、意味が理解出来ない犬は「飼い主の前で排泄したら怖い思いをする」と排泄自体を我慢するようになったり、飼い主さんがいないときに排泄を失敗するようになってしまったり問題がさらに悪化してしまうこともあります。
トイレのしつけを行うときは、トイレトレーの上で排泄をするという成功体験を重ねるために、飼い主の適切な対応と環境設定を心がけることが大切です。

犬を叩くことは「怒り」の感情

【飼い主にとって望ましくない行動】
・本能的・衝動的で強い興奮を伴う行動
・犬自身や飼い主,他人(犬)の生命・身体を脅かす行動
・どんなご褒美よりも問題となる行動をとることのモチベーションが高い場合
・緊急にやめさせないと飼い主が飼育することが困難となる行動

などといった場合は、叱ることが必要になることもあります。

しかし、前述したように叱ることは犬に恐怖心を与えることなので
・叱り方によっては犬がけがをしてしまう
・恐怖心が強くなってしまう
・自分の身を守ろうとして攻撃行動を示すようになる
・叱った人やその時の周囲の環境と恐怖心が結び付いてしまう
・無気力になってしまう
など、犬の福祉を損なう重大な副作用が生じてしまうことがあります。

犬への身体的な痛みを伴うような叱り方は恐怖心を与え、問題を悪化させる

昔は人と犬の関係では上下関係を保つことが重要と考えられていたために、「叩く」「首を絞める」「マズルや体を力で押さえつけてコントロールする」といった叱り方が効果的といわれてきました。

しかし最近の様々な研究で、犬は人に対して上下関係を求めていないと考えられるようになり、これらの身体的な痛みを伴うような方法は、ただ単に犬に恐怖心を与え委縮させることで望ましくない行動をやめさせているだけで、さらに問題を悪化させるということもわかってきました。

このように、特に身体的な痛みを伴うような叱り方は犬の福祉が損なわれ、問題の改善どころかさらに悪化させてしまいます。
どうしても叱らなければならないと感じたときは、自らの判断で行うのではなく、叱ることの弊害をきちんと理解している専門家へ必ず相談してください。
叱らなくても問題を解決できる方法が見つかるかもしれません。

犬のしつけのポイント①【人の対応や環境を変える】

しつけを行う上でどうしたら叱ることを減らし、褒めることを増やせるのか。
1つ目のポイントとしては、望ましくない行動を起こさせないように、人の対応や環境を変えることです。

犬のしつけのポイント①【人の対応や環境を変える】


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例えば、盗み食い。
犬が届くテーブルの上に食べ物が置いてあった時に、犬に「テーブルの上の物を食べたらダメ!」と叱るのではなく、犬が届く場所に食べ物を置かないことが重要です。
テーブルの上に食べ物があれば、犬はそれを食べてはいけないとは考えらずどうしても食べたくなってしまいます。
「犬が食べてはいけないもの」「犬に食べられては困るもの」は日ごろから犬の目が届く場所には置かないようにしましょう。

犬のしつけのポイント②【望ましい行動を褒める】

2つ目のポイントとしては、望ましくない行動を叱る前に、何をすれば飼い主さんにとって望ましい行動なのか考え、褒めて教えることです。

例えば、犬が飛びついて困っている場合、人の前に来たらおすわりで待つことを褒めて教えてあげます。犬が飛びついてくるのは飼い主をはじめとした人に対しての愛着行動の一つで触れ合いたいからです。飛びついてきたときにかまってあげれば、飛びつくことでかまってもらえると学習します。また触れ合うときに、人が興奮した態度で触れ合えば犬も興奮して飛びつきやすくなります。そのため、落ち着いて触れあえるように人も大きな声を出したり激しく動いたりせず、落ち着いた態度で犬におすわりをさせてから優しく触れ合ってあげましょう。
もちろん、おすわりを理解していない犬ではなかなか練習することができないので、日ごろから、おすわりの練習をすることも大切です。

犬のしつけ「怒る」まとめ

犬のしつけは褒めるだけではどうにもならないこともあります。
その時の感情のままに怒ってしまっては、犬に伝えることはできません。

愛犬がどうしてその行動をしてしまったのか、その時の状況や愛犬の気持ちを整理して冷静に判断しましょう。
そして、必要があれば「怒る」のではなく「叱る」。
犬にわかりやすくNOを伝えることができるとしつけもしやすくなります!

監修者情報

監修者情報



鹿野 正顕(学術博士)

・学歴(大学・院、学部、専門分野)
麻布大学大学院 獣医学研究科 博士後期課程修了 
専攻:人と動物の関係学、犬の行動学
麻布大学介在動物学研究室(旧 動物人

ライタープロフィール

ライタープロフィール


長根あかり Akari Nagane
・学歴:帝京科学大学 (生命環境学部 アニマルサイエンス学科)

・ライター歴:2年

・過去の執筆履歴:ペトこと 『楽しく教える犬のしつけ』『犬と寝るって幸せ』など

・飼っている犬種:雑種

「幼少期から動物が好きで将来は動物に携わる仕事がしたいと夢見ていた。

高校、大学と動植物について学び、大学2年の時に初めての犬に「保護犬」を迎える。

愛犬と共に行動学やアニマルセラピーについて学び、OPDES公認ドッグトレーナー資格、動物介在教育アドバイザー認定資格を取得。

現在は、自身の経験から保護犬についての相談や家庭犬のしつけ・トレーニングについてフリーで行っている。」

コンテンツ提供元:愛犬と行きたい上質なおでかけを紹介するWEBマガジン Pally

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