【獣医師監修】寄生虫によるリーシュマニア症の予防と治療法
サシチョウバエという非常に小さな昆虫の媒介によって起こる人獣共通感染症が、リーシュマニア症です。 日本では聞きなれない寄生虫疾患ですが、地球温暖化などが原因で今後は日本でも発生が増える可能性がないとは言えないので、頭に入れておきたい感染症と言えます。
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リーシュマニアとは
リーシュマニアは原虫の一種。サンチョウバエという、蚊よりも小さな夜行性の吸血昆虫が犬や人を刺すことで、リーシュマニアは体内に寄生してリーシュマニア症を引き起こします。
人において、リーシュマニア症はパキスタンやインドやバングラデシュなどの南アジア、スーダンなどのアフリカ地域で流行しています。
地中海沿岸地域や南米でも一般的で、リーシュマニア症は世界100ヵ国以上で発生が見られます。
人での発生がある地域では、当然ながら犬にもリーシュマニア症が発症する可能性があります。
リーシュマニア症に感染したらどんな症状が出る?
リーシュマニア症の潜伏期間は、数ヵ月から数年間。
犬が発症すると、数週間から数ヵ月で死亡すると言われています。
主な症状は、食欲減退、体重減少、皮膚の脱毛や潰瘍や色素沈着、ブドウ膜炎や緑内障などの眼疾患、歩行異常、鼻血、貧出血、下痢、腎不全、リンパ節腫大です。
無症状の感染犬も多く、一説によるとリーシュマニア症が見られる地域において50~80%の犬が抗体を持っているとされます。
人間には、内臓型リーシュマニア症、皮膚粘膜型リーシュマニア症、皮膚型リーシュマニア症という種類があります。
内臓リーシュマニア症のみ、治療をしなければ死に至る危険性があります。
世界では年間、2~3万人がリーシュマニア症で死亡していると考えられているそうです。
犬リーシュマニア症の診断方法
日本国内でリーシュマニア症の犬が確認された例は、多くありません。発症例はいずれも、イタリアやスペインなどリーシュマニア症の発症地域から日本に入った犬でした。
一般的な動物病院では診断が不可能なため、大学病院で、組織学的、免疫学的、臨床所見から犬リーシュマニア症であると診断されました。
リーシュマニア症の発症地域で生活していた犬を日本に入れる際は、念のため犬リーシュマニア症の症状が出ないかを観察しておくことが重要です。
もし犬リーシュマニア症を疑う症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
リーシュマニア症に関しては、日本の獣医師は知識がないこともあるので、その場合は大学病院などの2次診療病院を紹介してもらうのが安心でしょう。
犬リーシュマニア症の治療法
リーシュマニアに抗生物質は効かないため、殺リーシュマニア原虫剤を用います。
ヨーロッパの獣医療の現場では、人のリーシュマニア症の治療で用いる抗真菌薬のAmBisomeが、犬リーシュマニア症の治療によく使用されているといわれます。
日本における輸入犬症例では、Glucantimeによって治療を行ったところ、治療の開始から約1ヵ月で症状が改善したという報告があります。
リーシュマニアの寄生を予防するには
南米をはじめ世界はリーシュマニアワクチンの開発が進んでいますが、現在のところ、ヨーロッパのようにサシチョウバエの駆除や、刺されないようにするといった対策が中心です。
サシチョウバエは高さ1m以上の飛行がむずかしいとされていること、また夜行性であることから、リーシュマニア症の発生地域において、夜間は高い場所で犬を寝かせるのはひとつの予防策になるでしょう。
まとめ
日本ではまず見られない、人と動物の共通感染症であるリーシュマニア症。
けれども、グローバル化の加速や、地球温暖化によって、日本でもリーシュマニア症が見られるようになる可能性がないとは言えません。
実際に、リーシュマニア症の発生国から帰国した日本人でリーシュマニア症を発症した例もあります。
愛犬を伴っての海外赴任や海外旅行、犬を輸入する際は、犬リーシュマニア症にも注意を払うようにしたほうが良いでしょう。
監修者情報
箱崎 加奈子(獣医師)
・学歴、専門分野
麻布大学獣医学部獣医学科
ライタープロフィール
臼井 京音 Kyone Usui
フリーライター/ドッグ・ジャーナリスト。
旅行誌編集者を経て、フリーライターに。独立後は週刊トラベルジャーナルや企業広報誌の紀行文のほか、幼少期より詳しかった犬のライターとして『愛犬の友』、『ペットと泊まる宿』などで執筆活動を行う。30代でオーストラリアにドッグトレーニング留学。帰国後は毎日新聞での連載をはじめ、『週刊AERA』『BUHI』『PetLIVES』や書籍など多数の媒体で執筆。著書に『室内犬気持ちがわかる本』『うみいぬ』がある。
コンテンツ提供元:愛犬と行きたい上質なおでかけを紹介するWEBマガジン Pally