【猫びより】【肉球礼賛】肉球ってすごい!(辰巳出版)
肉球とはどんな器官で、猫が生きるために何の役に立っているのでしょうか? どうやらかわいい見た目に反して、驚くほどの優れもののようです。(猫びより 2021年05月号 Vol.117より)
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肉球のいろは
肉球の正式な名前は「蹠球(しょうきゅう)」といいます。前足の先のほうに並んでいる5個を「指球(しきゅう)」、凸型をした部分を「掌球(しょうきゅう)」、人間でいうと手首のあたりにある1つを「手根球(しゅこんきゅう)」と呼びます。
後足は、指の球を「趾球(しきゅう)」、その少し後ろの大きい球を「足底球(そくていきゅう)」と呼び、親指にあたる第1趾と手根球はありません。
鼻と肉球は同じ色!?
左右は同じ猫の鼻と肉球。真ん中のやや色素が濃いピンクの鼻の猫は肉球に黒い斑点が出ている
肉球の色は遺伝によって決まるメラニン色素の量に左右されるとされています。そのため毛色や毛柄と関連しており、白い毛の割合が多い猫ほどピンクに、黒など濃い色の毛が増えるほどあずき色や黒、黒とピンクのまだら模様などになる傾向があります。
また、鼻の色もメラニン色素の多寡によって変わるので、肉球の色と一致することが多いです。
神経が集中した高性能レーダー
オモチャで遊ぶ時も肉球で状態を確認
表面は皮膚組織ですが、内部は弾力に富んだ構造になっていて、プニプニとした病みつきになる触り心地がします。同時にそこは多くの神経細胞が集中するデリケート・ゾーン。猫にとってはヒゲとならぶ重要な触覚の受容器官です。
いち早く危険を察知・回避しながら獲物を狩ることに特化したこの感覚器官によって、猫は今日まで生き残ってきました。地面に触れることで足場の安定性や周囲の状況を察知したり、小動物にチョンチョンとタッチすることで反撃されずに仕留められるかどうかを確認したり……。そんな肉球は、猫が装備する高性能レーダーの一つなのです。
優れたクッション性
スマトラトラ(左、写真・芳澤ルミ子)と犬の肉球。犬の爪は猫のように収納できない。肉球の表面は長時間走ってもケガをしないよう硬くて頑丈
動物の肉球は、靴底のやわらかいジョギング・シューズのように、足に伝わる衝撃を軽減して、長い距離を歩いても疲れにくくしてくれます。特に猫の肉球は、他の動物に比べてもやわらかいのが特徴。おかげで高い所から飛び降りてもあまりケガをしません。
加えてほとんどのネコ科動物と同じく自在に爪を出し入れできるので、爪を引っ込めれば歩く時にほとんど足音が立たなくなります。獲物に忍び寄って狩りができるのにも、危険を察知するといつの間にかいなくなるのにも、気づかぬうちに背後を取って人間をぎょっとさせるのにも、かわいい肉球が一役買っているようです。
肉球は汗っかき
気づいたらとんでもない所にいるのも肉球マジック
動物病院の診察台に猫が乗ると足跡が残ることがあります。これは緊張した時に出る汗です。猫は鼻と肉球にだけしか汗をかきません。乾燥した地域に暮らしていた祖先が、水分を節約するために全身にあった汗腺を退化させたためではないかと考えられています。
現在の猫たちにとって、足裏から出る汗は、滑り止めとして重宝しているようです。フローリングの上を滑らずに猛スピードで走れるのも、傾斜のついた屋根や幅の狭い壁の上を危なげなく歩けるのも、肉球のおかげなのです。また、その汗に含まれるフェロモンなどのにおい成分は、猫同士のコミュニケーション・ツールになっていると考えられています。
肉球と科学の未来
猫の肉球には人類の夢が詰まっている!?
最近中国では、猫の肉球の構造や機能を分析して、衝撃や振動を軽減する技術に応用する研究が始まっています。一昨年には猫の肉球の構造を顕微鏡やCTスキャンで調べて、コンピュータ・シミュレーションで衝撃吸収のメカニズムを明らかにした研究が、昨年は猫の肉球の形状をオートバイのタイヤの設計に応用する研究が論文発表されました。
今後、こうした研究が進めば、猫の凄さを再認識するような驚きの発見や、人類の生活を一変させるような発明がもたらされるかもしれません。
監修・兼島孝
Text by Saito Minoru