【特集:7歳から知って・そなえる、猫の認知症】連載Vol.2 認知症を防ぐには?
「vol.1猫の認知症を正しく知ろう!」では、なぜ猫の認知症があまり知られていないのかをお伝えしました。不安を抱える大切な家族をケアするためには、まず病気を知ること。Vol.2では、認知症に気づいてあげる方法や予防方法について、前回に続き林ユミさんと小澤真希子先生にお話を伺います。
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どうしたら認知症に気づいてあげられる?
― 飼い主さんはどうしたら認知症に気づくことができますか?
小澤先生:どこに認知症の症状が出てくるのかは分かりませんので、猫ちゃんの体や行動など全般を見ておくことが重要だと思います。注目するポイントは、ごはんをどう食べているか、どう排泄をしているか、どこで休んでいるか、遊びの量は減っていないか、爪とぎはしているかなど、基本的な猫ちゃんの行動になります。
早く気づいてあげることは大切ですが、ちょっと変化があった!ということで、すぐに動物病院に駆け込むのはおすすめしないですね。まずは行動を記録しておくのが良いと思います。いつから行動の変化があったのかが分かると診断の助けになります。いくつか行動の変化が重なってきた時に記録があると、「この時にこの変化もでてきたんだ」と振り返ることができます。心配な行動が増えてきたら動物病院に行くことをおすすめします。
あとは、定期健診で動物病院に行き、その時に相談するのが良いと思います。
獣医師/認知症の専門医 小澤真希子先生
猫の認知症チェックリスト
― 行動を記録することが良いということですが、どのような行動に注意すると良いですか?
小澤先生:そうですね、「猫の認知症チェックリスト」が分かりやすいと思います。これはいくつかチェックが付いたら認知症または病気と診断するものではなくて、こういう行動が認知症では良くあるパターンなので、当てはまる行動があったら可能性がありますというリストなんです。
猫の認知症チェックリスト
□ 飛び乗ったり飛び降りたりしたがらない
□ 低い場所しか飛び乗ったり飛び降りたりしたがらない
□ ときどき身体がこわばっているようにみえる
□ 以前よりしゅん敏さが低下している
□ 足をひきずる
□ 猫用ドアからの出入りが困難になる
□ 階段の上り下りが困難である
□ 抱き上げるとなく
□ トイレ外での排泄が増える
□ 身づくろいすることが減る
□ 飼い主との関わり合いに消極的になる
□ 他の動物やオモチャで遊ぶことが減る
□ 眠る時間が増え、活動性が低下する
□ 理由もなく大声でなく
□ 忘れっぽいように見える
※認知症による変化と他の問題行動や神経系疾患、関節疾患を区別することは難しい
※環境変化がないことを確認した上で用いること
引用元:
Guun-Moore DA. Cognitive dysfunction in cats: clinical assessment and management.
Topics in Companion Animal Medicine 17-24, 2011
― 認知症と診断された愛猫のボンちゃんには、認知症チェックリストに当てはまる行動は見られましたか?
林さんの愛猫・ボンちゃん
林さん:飛び乗ったり飛び降りたりの場合は、したがってはいましたけど、ボンも諦めているような感じでした。高齢で関節炎などの不調があったのかもしれません。認知症とわかる数ヶ月前からは、低い場所でもジャンプをすることが減りました。しゅん敏さは低下していましたし、足を引きずるというより、滑るような感じで歩いていました。
「吾輩は認知症ねこである(林ユミ/小学館)」より
林さん:チェックリスト以外のことで考えると、ベッドの下に入る行動に変化がありました。高齢になってからは入らなくなっていたのに、認知症の症状で家中を歩き続けるようになってから、またズンズン入って行くようになったんです。他にもトイレ以外の排泄や階段の上り下りが困難というのもありましたし、毛づくろいも激減しました。飼い主との関わり合いに消極的になる…具体的にはどんな感じですか?
小澤先生:飼い主さんとの関わりを求めない、などでしょうかね。
林さん:認知症を発症してから、うつろな表情が増えてきて、私と目線が合わなくなりました。当たり前だったアイコンタクトがなくなって、私自身、心細かったです。当初は、どうにかボンの視界に入って目線を合わせようとしました。ボンの気持ちを目線や表情から汲み取れない不安を払拭したかったんだと思います。
「吾輩は認知症ねこである(林ユミ/小学館)」より
林さん:歩く時の目線も前じゃなくて斜め下を見ている感じでした。眠る時間も増えて活動性は低下しました。おもちゃで遊ぶことも減ったし、ボンが家中を歩き続ける理由は、この「忘れっぽいように見える」につながっているのかもしれない・・・今思うと全部当てはまる気がします。
小澤先生:ボンちゃんは19歳でしたので、高齢による運動能力低下もあったとは思います。それでも、全部当てはまるということは、やはり認知症はあったでしょうね。
認知症は予防ができる?
大切なのは、毎日の食事と適度な運動
― 認知症を予防するためにできることはありますか?
小澤先生:これは犬の認知症の話になりますが、予防因子というものが分かってきています。認知症の場合は、食生活がきちんとしている、それから活発に運動や活動をしているということが予防因子になると言われています。人でも言われていることですので、おそらく猫もきちんとした食生活、身体活動、認知活動をすることが予防になると思います。
― きちんとした食生活について具体的に教えてください。
小澤先生:まず、きちんとした食事というのは栄養です。偏った栄養になっていないということが大切です。脳に良い栄養というのも分かってきています。例えば抗酸化物質やビタミンとかDHA、EPAといった成分ですね。こういった成分を豊富に含んでいる方が良いです。こちらも犬の話になりますが、逆に悪い食生活は、人の食べ残しを与えている場合ですね。必要な栄養を満たしていなかったり、栄養が偏ってしまったりということがあります。猫ちゃんで確認されていることではないですけど、同じことが言えると思います。
林さん:猫が若い頃からやった方が良いですか?
小澤先生:シニアになってから、シニアに必要な栄養を与えるべきだと思います。幼少期は体をつくるための栄養を与えるべきですし、維持期は太りにくい食事やその子の体を維持するために必要な栄養を与えるべきですね。
ストレスをためないこと
小澤先生:ストレスをためないことも大切です。生活していくうえで猫ちゃんに必須なアイテムってありますよね。トイレ、爪とぎ、水飲み、フードボウル、おもちゃ、眠る場所、隠れる場所、こういったものが気持ちよく整えられているということが重要ですね。これが整っていないと環境のストレスを感じます。あとは変化ですね。猫ちゃんは気持ちの良い環境が整っていたら、それが崩れないということが良いです。飼い主さんの行動パターンも変わらない方が良いです。本当は季節の変化も好まないですし、雷も好きじゃないし。
林さん:花火もですよね
「吾輩は認知症ねこである」著者 林ユミさん
小澤先生:日本人は四季折々のイベントが好きですけれども、クリスマスツリーをいきなりドーンと広げることも好まない猫ちゃんはいます。広げちゃいけないわけじゃないですけど、まず箱のまま置いて、猫ちゃんがしばらくニオイになれてから開封するとか。
林さん:大変だ(笑)
小澤先生:飼い主さんの外出パターンの変化もストレスになることがあるんですよね。ストレスが認知症を発症させやすくするのかどうかは分かりませんし、ストレスが全くない生活というのは難しいです。適度なストレスは生活の刺激になることはあります。しかし、高齢期の猫ちゃんには与えない方が良いと思います。それは高齢になると対処が苦手になるからです。
林さん:高齢期の猫といえば、今一緒に暮らすヤムは21歳なんです。ヤムがストレスをためないように、短時間でもヤムとの時間をつくるようにしているのですが…
小澤先生:具体的にはどのような時間をつくっているんですか?
林さん:ヤムがニャーニャーと何か言ってきたら、一旦、仕事の手を止めて30秒でも良いから抱きあげます。その後もニャーと鳴いていることも多いですが(笑)結果的にヤムが「えっ?無視?!」で終わらないように、いっときでも関わるようにしています。あとは食事のことかな。理想は朝・夕2回で完食!なのですが、ウチの歴代猫たちはフードダラダラ食べ派。ドライフードは常に器にある状態にしているので、1日3回は器をきれいにして、フードを入れ替えるようにしています。
小澤先生:良い関わり合いだと思います。
林さん:先生もおっしゃったように、ストレスをゼロにすることは無理ですよね。お互いストレスをかけちゃうところはあると思います。ヤムも21歳と高齢なので、のんびり安心して過ごしてもらいたいです。
小澤先生:原因が分からないからだと思うのですが、高齢の猫ちゃんを連れてくる飼い主さんの中には、猫ちゃんの行動変化は、“わざと”やっていると思っている方も少なくないです。できなくなったことを「高齢だから」と切り替えることができる方もいれば、切り替えが難しい方もいますね。
自分だけで悩まない、かかりつけの動物病院の大切さ
林さん:少し話はずれますけど、かかりつけの動物病院の大切さを痛感しています。猫のためにとってはもちろん、飼い主さんのメンタル面も支えてくれる所だと思っています。
小澤先生:自分一人でというのは難しいと思いますね。
林さん:正しい知識でサポートしてくれるので、飼い主さんだけで抱え込んでしまうことが防げると思います。どうしても、飼い主さんが家族と暮らしていると、家族によって認識の差はでてきちゃいますよね。例えば日中メインでお世話をしている人は、これまでとの違いに気づける。でも帰宅後の様子しか知らない人だと「今は大丈夫そうじゃん」とか「たまたまじゃない?」と、どうしてもギャップがある。家族同士のやり取りで疲れちゃうことも。だから正しい知識・情報を与えてくれる、かかりつけの動物病院を見つけるのは大切だと思います。
できるなら、猫を迎え入れた時に、かかりつけ獣医さんを見つけると良いと思っています。良い病院であることは基本ですが、合う・合わないもありますよね。私の場合は丁寧に話を聞いてくれて、意思疎通がしやすい病院が合っていました。長いお付き合いの中で、猫の性格や体調の変化、私の心配性な性格も分かっていただけています(笑)
小澤先生:すごく大切です。とても神経質な猫ちゃんの場合は、まずは移動用のバッグに慣らすということから始めた方が良いです。バッグに入ってもらう前で争いになってしまっては大変なので、中でおやつを食べる習慣をつくって、自然に入ってくれるようにしてあげるとか。病院で他の動物の音を聞くのがストレスになることもあるので、バッグにタオルなどをかけてストレスを軽減してあげるという方法もあります。とにかく飼い主さんが一人で抱え込まないことと、がんばりすぎないことを伝えたいです。
林さん:すごく分かります。
小澤先生:がんばりすぎると一時的には丁寧な対応ができても、力尽きて対応が変わってしまうと、その対応の一貫性のなさというのが、どんな動物にとってもストレスになります。飼い主さんのできる範囲で、理想に囚われすぎずにその猫ちゃんに合った対応を選んであげると良いでしょう。
お話を伺ったのは
イラストレーター 林ユミさん
自身の経験から「吾輩は認知症ねこである」を出版。あたたかくやさしいイラストで、児童書を中心に活躍。イラストを手がけた本は「よのなかのルールブック」(日本図書センター)、「赤ちゃんはどこからくるの?」(幻想者)など多数。
行動診療の専門医(問題行動治療・犬と猫の認知症)小澤真希子先生
東京大学卒業後、同大大学院修了。獣医学博士。獣医行動診療科認定医。東京と神奈川の動物病院などで、老齢動物の認知機能不全(認知症)の治療や行動診療(問題行動カウンセリング)を担当している。
関連書籍 吾輩は認知症ねこである
「吾輩は認知症ねこである」(林ユミ/小学館)
林ユミ(イラストレーター)、小澤真希子(獣医行動診療科認定医)ともに暮らす愛猫・ボンが認知症になった人気イラストレーター・林ユミさん。ボンとの不安で愛しい日々を、やさしい視点とあたたかな筆致で描いたコミックエッセイ。本書の最後には、心をゆさぶられる体験が待っています。
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