この記事では獣医師監修のもと、犬の黄疸(おうだん)の原因として多い肝炎(急性および慢性)について、その症状や検査・治療法について解説しています。動物病院に連れて行く前に参考にしてください。
黄疸(おうだん)とは?
黄疸とは、皮膚や白眼が黄色くなる状態で、血中にビリルビン(黄色の色素)が多すぎる場合に起こります。
ビリルビンは、赤血球の中のヘモグロビンが分解されるときに作られ、肝臓に運ばれた後に、胆汁(肝臓で作られる消化液の一種)の成分となって胆管という管を通って腸へ排泄されます。このビリルビンが肝臓や胆管を通過できない場合、血液中で多くなって黄疸になります。
犬の黄疸の原因として多いのは?
犬では、肝酵素といわれる肝臓の数値が上昇しやすいことが知られています。しかし必ずしも重度の肝疾患ではないことや、そもそも肝臓の病気でないことも多いので、あまり慌てず経過をみて再検査などを行うこともあります。一方黄疸がある場合には、重い肝臓の病気のことも多いので、必ず原因追及を行う必要があります。
主に肝炎と胆管閉塞
犬で黄疸になりやすい疾患としては、主に肝炎と胆管閉塞という2つの病気が挙げられます。肝炎はさらに急性肝炎、慢性肝炎、胆管炎などに分類されます。胆管閉塞は肝臓から十二指腸につながる太い胆管(総胆管といいます)が詰まり、胆汁の流れが滞ることでおきますが、ここでは詳しく触れません。
犬で黄疸の原因となる代表的な病気 |
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急性肝炎(中毒、感染症など) |
慢性肝炎・肝硬変 |
胆管炎 |
胆管閉塞(胆管炎や胆石、膵炎によることが多い) |
肝臓の腫瘍 |
溶血性貧血(免疫疾患や感染症によるもの。肝臓の病気ではありません) |
犬の肝炎とは?
なにかしらの理由で肝臓で炎症が起き、肝細胞が障害を受ける病気のことを肝炎といいます。
急性肝炎は主に摂取したものが原因でおきる中毒が多く、中毒物質としては、薬物(人間の薬の誤飲のほか、動物の薬でもおきることがあります)、化学薬品、細菌(レプトスピラなど)、ウイルス(伝染性肝炎ウイルスがありますが、極めて稀)などがありますが、原因がわからないことも多くあります。
慢性肝炎
慢性肝炎は特定の犬種では食物の中の銅が蓄積して肝炎を生じることがありますが、それ以外では原因不明(特発性といいます)であることがほとんどです。稀に薬剤の長期投与で起こることもあります。
胆管炎
胆管炎は肝臓・胆嚢と十二指腸をつなぐ胆管という管の周りを中心に炎症がおきるもので、腸からの細菌感染がきっかけになることが多いと言われています。
肝炎の発症しやすい品種や年齢は?
急性肝炎には明らかに発生しやすい犬種や年齢は知られていません。
慢性肝炎は、ベドリントンテリア、ドーベルマン、ラブラドールレトリバーなどで銅蓄積に伴う慢性肝炎が好発することが知られています。一方、アメリカンコッカースパニエルなどのコッカースパニエル系の犬では銅があまり関与しない慢性肝炎が多くみられます。国内ではプードルなどでも慢性肝炎を診ることがしばしばあります。慢性肝炎は中年齢で多く、雌雄を問わず発生が認められますが、やや雌に多いといわれています。
胆管炎も好発犬種はあまり知られていませんが、国内ではチワワで比較的多い印象があります。
犬の肝炎の症状は?
急性の肝炎や胆管炎では、急激な元気、食欲低下、嘔吐、下痢、発熱などの症状や黄疸が見られることがあります。慢性肝炎は緩やかに進行するため初期はほとんど症状がみられませんが、肝臓の機能が低下してくると、元気・食欲の低下、嘔吐、黄疸、腹水、神経症状、血が止まりにくい、などの症状も見られることがあります。
黄疸になると、白目が黄色くなったり、皮膚が黄色味を帯びたり、尿の色が異常に濃い黄色~オレンジ色になることがあります。
気になる症状がある場合はご相談ください
肝臓は沈黙の臓器とも言われ、肝炎とくに慢性肝炎があってもなかなか症状がでないことが多いのですが、黄疸は放っておいてはいけません。もしも白目がうっすらと黄色く見えたり、尿の色がとても黄色味が強いなどの症状がある場合には、早めに動物病院にご相談くだい。
JR山手線「原宿駅」徒歩4分 /
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東急田園都市線「三軒茶屋駅」
犬の肝炎の検査・診断法は?(動物医療センターPecoの場合)
当院で実際に行う可能性のある検査についてご説明します。
問診・身体検査
すべての動物に対して行われます。食欲、嘔吐や体重減少などの症状や、黄疸の有無など、身体検査上の異常について調べます。中毒物質摂取の疑いがないか、食べ物、環境、散歩コースなどを詳しくお聞きします。
血液検査
初診時には多くの動物で実施します。肝臓の数値や黄疸の程度を評価するだけでなく、他の病気がないかどうか調べるために実施します。通常血液検査では肝炎の原因はわかりません。
腹部超音波検査
黄疸がある場合には、胆管閉塞がないかどうかをまず鑑別します。その他に肝臓や胆嚢、胆管、膵臓の異常を調べますが、急性肝炎や胆管炎は超音波検査だけでは診断はできません。慢性肝炎が進行すると、肝臓の辺縁が凸凹になってくることがあります。
肝臓の病理検査
肝臓に細い注射針を刺して、肝臓の細胞を採取して顕微鏡で観察することがあります。慢性肝炎の確定のために、麻酔をかけて肝臓の一部を採取して病理検査を実施することがあります。採取は開腹手術か、腹腔鏡を用いて行います。
その他の検査
採取した肝臓を用いて、銅の蓄積の程度を調べることがあります。またレプトスピラなどの感染症が疑われる場合には、細菌の存在を調べる検査を実施することがあります。
犬の肝炎の治療法
急性の肝炎では抗生物質や肝臓の働きを助けるお薬を使います。中毒で原因物質がわかる場合(薬剤や食事など)にはその中止なども指示されます。もしも原因物質が判明して解毒薬がある場合にはそれを用いることも稀にあります。急性肝炎で重症の場合には入院治療が必要になる場合があります。
慢性の場合には炎症や過度な免疫を抑えるためにステロイド薬を使うこともあります。慢性肝炎の原因が銅の蓄積である場合には、銅含有量の少ない療法食と銅の排出を促すお薬などを用います。黄疸に対する薬はありませんが、肝機能の低下で同様に問題となる、腹水、神経症状、血が止まりにくい、などの症状に対してはそれぞれお薬を用いることがあります。
いずれの治療も肝臓の特効薬とはいい難く、肝臓が再生、回復する手助けをするのが目的となります。
当院の獣医師からのメッセージ
初診時の一般的な検査費用
当院では、病気の診断や状態把握のために、必要と思われる検査を選択致します。以下に一般的な犬の慢性肝炎の初診時の検査料金をご紹介します。症状などによっては追加検査が必要になることもあります。
検査項目 | 料金の目安 |
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カルテ新規開設料 | 1,100円 |
初診料 | 4,950円 |
血液検査 | 7,660円〜 |
超音波検査 | 4,500円〜 |
※治療費は別になります。