健康寿命が伸びる?!自然治癒力が高まる?! ペット「中医学」Q&A
中国伝統の予防医学「中医学」。ペットの高齢化をはじめ生活習慣病やアレルギーが増えている現在、健康寿命を伸ばす医学療法として注目を集めています。でも実際に、どこでどんな診療をしてもらえるのか、薬や費用など、わからないことだらけの方も多いはず。
そこで第1回に引き続き、中医師・楊達先生を直撃。一問一答形式で、「ペット中医学」の考え方や長所、診療の具体的な手順など、よりリアルにわかりやすくご紹介します。読めば疑問も不安も即解消!
「ペット中医学」の基本的な考え方
中医学って何なのかな?元気になれるの?
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Q:通常の西洋医学とはどんな点が違うのでしょうか?
A:病気の症状に対処し“治療”していくのが、一般的な「西洋医学」の考え方。一方「中医学」は“治療”もしっかりしますが、病気が発症する前の段階、及び治療後の“養生”もするというのが、もっとも大きな違いです。中医学が重要視するのは、「予防医学」の面。病気を防ぐことをサポートし、歳を重ねても健康であることを目指します。身体本来が持つ自然治癒力を最大限に引き出し、自らの力で病気を治していくという考え方に基づいています。
また、中医学で使うのは、自然の素材を使った薬「生薬(しょうやく)」。天然由来ゆえに体に負担をかることが少ないのも特徴です。薬膳や医食同源といった言葉でご存じのように、食生活そのもので体調のバランスを整えることも、中医学の治療の一環になります。
Q:中医学の真骨頂「予防医学」についてもう少し詳しく教えてください。
A:中医学の概念の中に「未病」という考え方があります。検査しても数字上では病気とは診断されない段階でも、調子が優れず健康とは言いがたい。そんな“病気”と“健康”の中間の状態が「未病」です。この「未病」に対して中医学では、体の抵抗力を強くすることで、
1/治療【病気を治す】
2/調節【崩れたバランスを整える】
3/養生【健康な人の老化を遅らせ、健康長生きをサポート】
の3つの観点からアプローチしていきます。
健康な場合はさらに健康に。不快な感じのある場合は正常にし、健康体へと戻していきます。つまり、健康な場合でも、半健康な場合でも適応できる「中医学」は、健康寿命を伸ばすための「予防医学」の神髄だといえるでしょう。
Q:よく聞く「漢方」とは違うのでしょうか?
A:日本の漢方医学はもともと中国から伝来したものですから、源流の元は同じです。漢方医学は、中国の伝統医学が渡来した後に、日本の環境、文化および歴史などにより、日本独自の知恵で変化してきたもの。一方、中国で数千年もの長い歴史と実例を通じ深められてきた「中医学」は、現在も中国以外にも一部の国では国家レベルの教育機関が整い、中医師という伝統医療を行う医師の資格もあり、時代に適合した進化を続けています。
人間もペットたちも高齢化がすすむ現在の日本において、「予防医学」を重視する中医学への注目が年々高まってきています。事実、日本の医師免許を持つドクターたちが中国へ留学する、あるいは中医学の勉強会への参加など、本格的に中医学に取り組むケースも増えています。
Q:ペットのどんな病気に効きますか?
A:感染症や寄生虫など、昔は衛生面での病気が多かったペットたち。ですが、現代はほぼ人間と同じ生活を送っており、ペットも高齢化社会に突入しているため、皮膚病、運動障害、腫瘍、心臓疾患、老化による痴呆などが増えてきています。
じつはこのような慢性疾患においてこそ、治癒力を高める中医学の長所を発揮しやすいといえます。炎症など急性疾患や重症のコントロールに長けた西洋医学。そこに中医学が得意とする体質強化をプラスしていけば、質の高い治療がかない、再発の防止にも有効だと思われます。西洋医学と中医学、両方のメリットを取り入れることが大切です。
「中医学」診療を行う病院選び
どこで診てもらえるのかなあ。先生は優しい?
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Q:「中医学」治療ができる病院はどこにありますか?
A:漢方を処方したり、鍼灸やマッサージの施術をするなど、中医学を意識的に学び、積極的に取り入れる獣医師さんたちが全国的に増えています。例にあげると、私が参加するペット中医学研究会に所属する動物病院の数は全国で300件ほど。ご自宅の近隣にも中医学治療に積極的な病院があると思いますので、「元気がないな」「食欲がないな」という段階でも、ぜひ一度相談へ足を運ばれることをおすすめします。
Q:「中医学」の処方はどうやって入手したらいいのですか?
A:中医学の処方は、基本的にオーダーメイド。診断を受けてから、その時点の症状に最も合うものが個別に選択されます。サプリメントなどもありますので、より高い効果を期待するのであれば、中医学診療を行う獣医師さんに相談してから服用させるのがいいでしょう。
「中医学」の具体的な診療
どんな診察なんだろう?薬は苦いのかなあ~
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Q:「中医学」の診察の流れを教えてください。
A:ワンちゃんや猫ちゃんの体の症状を細かく観察する「四診(ししん)」という4つの診断手技がメインになります。
1/望診(ぼうしん)目で診る。舌の状態や肉球の色など身体全体を診る。
2/聞診(ぶんしん)鼻・耳で診る。口や耳の匂いを嗅ぎ、鳴き声や呼吸音を聞く。
3/切診(せっしん)触って診る。身体にふれて脈やお腹の張り具合などを診察。
4/問診(もんしん)口で聞く。飼い主さんからペットの食べているものや生活環境をヒアリング。
このように五感を利用して、食事、睡眠、便、活動力、精神意識、毛の艶などペットの家庭環境を含めた状態を細かくチェックして判断していきます。そのうえで、一番合う薬をオーダーメイドで処方。必要であれば検査もします。
Q:どんな薬が処方されるのでしょうか?
A:ペットの病状や体質に合わせ、生薬のせんじ薬を顆粒や錠剤にしたものや液体の薬が処方されます。内容としては、
◇体力などを増強し補うもの
◇消化機能を良くするもの
◇炎症をコントロールするもの
◇血液の循環を改善するもの
◇体内にたまった毒素や炎症をデトックスするもの
◇乱れた体内バランスを調節し整え調和させるもの
など。また、ペットの高齢化に伴い増えている、ワンちゃんの痴呆症や神経症、歩行困難などにも中医学の生薬が用いられています。
Q:食餌や生活指導などもしてくれますか?
A:中医学における治療の3本柱は、「薬の内服」、「マッサージ・スキンケアなど外からの刺激とスキンシップ」、「養生の指導」です。この中の「養生」の基本が、毎日与える食をはじめとする生活習慣の見直しになりますので、しっかり指導してくれます。手作り食にオーガニックな食材や、旬の食材を取り入れてもいいでしょう。ほか運動や睡眠など、心身ともにバランスが取れるよう、様々な角度からアドバイスします。
家庭での処方の注意点や心得
何だか調子よくなってきたみたい~
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Q:投薬方法は? 匂いをペットが嫌がったりしませんか?
A:ワンちゃんには錠剤が飲ませやすく比較的問題ないのですが、猫ちゃんは時折嫌がるケースがあります。その場合は、黒砂糖に溶かしたり、ジャムに混ぜて与えるなど、人間の子供と一緒で嗜好性に合わせた工夫が少々必要になります。
また、一日分として処方された量を指示通りに一回で服用しなくても大丈夫です。その子に合わせて、飲みにくいようだったら小分けにして、4回、5回と少量で与えてみてください。
動物は自分の身体にいいと感じる食べ物は、率先して口に入れます。天然素材の生薬だからこそ、喜んで食べてくれる場合もありますので、あまり神経質になる必要はないでしょう。
Q:マッサージの効果は? 誰でもできますか?
A:マッサージなどの外的療法の効果は、経絡・ツボにより病気を治す以外に受ける側がリラックスすることもあります。リラックスすることで体の抵抗能力が高まり、病気の発症も少なくなると中医学では考えます。
自宅で飼い主さんが取り組む場合は、まずはスキンシップからを心がけてみてください。基本は、愛情たっぷりにタッチしてあげること。痛い部分があって嫌がる場合もありますが、それ以外は気持ち良くなって、心身ともにゆったりする子が多いでしょう。
また中医学では、身体の調子を整える「ツボ」とそれを結ぶ「経絡(けいらく)」という考え方があり、不調に応じた箇所を優しく押さえることで改善が見られます。効果的な経絡とツボを先生にいくつか教わって、優しくマッサージしてあげれば、ペットは必ず喜んでくれます。その場合は、日本の指圧のようにぎゅうぎゅう押さないように気をつけましょう。人間の“痛気持ちいい”という感覚はおそらく理解できないと思います。
Q:何度も通院する必要がありますか?頻度は?
A:先の診断部分で説明したように、その時々の身体の様子や症状をしっかり診ることが、中医学ではとても大切です。慢性疾患の場合でも治療→調節→養生へと段階が変わると考え、病気や健康状態の変化を随時観察し、薬の処方を調節していきます。経過報告や相談も含めて、2週間おきや1カ月おきなど、定期的な通院がおすすめです。
Q:副作用など投薬で気をつける点はあるのでしょうか?
A:飼い主さん自ら勝手に選ぶことなく、獣医師に正しく相談したうえでの投薬であれば、副作用の問題はきわめて少ないでしょう。中医学の生薬は化学薬品でなく、サプリメントも食の安全基準を満たす自然の素材から製剤されます。サプリメントとして長期間投与しても問題はあまりないといえます。万が一副作用らしきものが出たときは、ただちに獣医師に相談し、対処してもらいましょう。
Q:どれくらいで効果が出ますか?
A:「治療」と「養生」が混同しやすいため、「長く飲まないと効果がないのではないか」と思われる方も多いと思います。未病状態を改善したり、体内をデトックスする養生の処方では、日々の変化はとてもゆるやかになります。一方、しっかりした治療の場合は、2~3週間で変化が見られますので、随時ペットの様子を獣医師さんに診てもらうことが大切になってきます。
まとめ
散歩が楽しくなってきたよ。ゴハンもおいしい♪
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自然の中で生きてきた動物たちがいつの間にか、人間と同じ生活環境の中で高齢化してきています。年々増加傾向にある生活習慣病やアレルギー、腫瘍や神経系の病気の対処には、身体そのものに本来備わる自然治癒力を高めることが大切だと、中医学のアプローチは教えてくれます。人間もペットも、病を治すのは結局、自分自身の力。より長く健やかに、ペットたちと家族として幸せに生きていくために、中医学の長所を取り入れていきましょう。
楊 達(よう たつ)
1982年、中国雲南中医学院医学部卒業後、中医外科教室助手・講師に。1993年、埼玉医科大学皮膚科教室留学し、医学博士号を取得。現在、日本における中医学の普及活動に従事。幼少期に犬と過ごした体験から、「ペット中医学」に力を入れる。世界中医薬学会連合会常務理事。中国雲南中医学院客員教授。