【猫びより】好みの違う猫たちにきめ細かく合わせたDIY(辰巳出版)
築20年を超えた輸入住宅を、猫と人が楽しく暮らせる空間に作り替えるサトウノリエさんは、壁に穴を開けて窓をはめ込むといった難易度の高い作業もこなすDIYの達人。キュートな部屋には、猫たちの好みに合わせた工夫がたくさん詰まっていた。(猫びより 2017年11月号 Vol.96より)
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それぞれの猫が楽しく過ごせる場所作り
北海道新幹線の開通で新函館北斗駅ができ、全国にその名前を知られるようになった北斗市に、DIYの達人、サトウノリエさんは住んでいる。函館駅からも車で15分ほどの距離で、輸入住宅が建ち並ぶお洒落なエリアだ。ドアを開けて迎えてくれたノリエさんの後ろから6匹のメインクーンが現れて歓迎してくれる。大きな猫たちに囲まれたノリエさんは、大工仕事をバリバリこなすことが信じられないほど華奢な女性だ。
小さな空間が、港町の風情を感じさせる猫のためのカフェに!
もともと手作りが大好きなノリエさんがリフォームをはじめたのは、今から4年前の2013年。
「築20年で家がだいぶ傷んできたので、素人が何かやってもこれ以上悪くならないし、失敗したらやり直せばいいと思ってはじめました」とノリエさん。リフォームした場所は、リビング、猫の遊び場、予備室、キッチン横の猫トイレ、ご飯スペースなど多岐にわたる。
猫の個性に合わせたDIY
階段手前のタワーと猫の遊び場で高低差を存分に楽しめる
階段に沿ったキャットタワーが印象的なリビングは、落ち着いた雰囲気。
「リビングは夫がくつろぐ場所ですから、男性でも居心地よく過ごせる空間作りを心がけました」とノリエさん。テレビ台や棚、階段沿いのキャットタワーなど、木の素材感を生かしたインテリアに猫たちのためのスペースがうまく組み合わされている。アクセントは、控えめなウォールステッカーやペイントされた引き出し。リビングは吹き抜けだが、楽に手が届く位置にしかキャットステップをつけていない。病気で動物病院通いをしていた猫が高い所に逃げて困ったことがあってから、手の届かない場所にステップを設置するのはやめたそう。言われてみたら確かに大事なことだ。
ウォールステッカー前の林檎ちゃん
階段横のキャットタワーは、大型種のメインクーン6匹というサトウ家の猫事情に合わせて作られているので、サイズも強度もバッチリ。よく見ると、キャットタワーの四角い柱には1面にしかステップがついていない。
「うちにはステップをピョンピョン飛び移るのが好きな子もいれば、柱を一気に登りたい子もいます。この柱は一気に登りたい子用に作りました」とノリエさん。
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写真提供:サトウノリエ
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キッチン横を猫のご飯&トイレスペースに
そして、リビングから続くキッチン横は、猫たちのトイレ&ご飯スペースがある。それぞれが体調や年齢に合わせたフードを食べられるよう、ご飯はケージの中であげている。ここにもキャットウォークやキャットステップをつけて、猫たちが行き来できるルートをいくつか作ってある。
「行き止まりにするより走り回れる方が楽しいようですし、他の猫を避けて動けるルートがあると平和になります」とノリエさん。猫たちの行動をきめ細かく観察して、みんなが満足できるよう心を砕いていることがうかがえる。
かわいい写真をいっぱい撮りたい
「猫をかわいく撮れる場所を増やす」こともノリエさんがリフォームをはじめた大きな目的だった。それに合わせて特に力を入れたのはリビングの階段上にある「猫の遊び場」スペース。ここにはなんと、2階建てでカウンターにドア、そして窓が2つもあるキャットハウスがある。しかも、窓のひとつは丸い船窓。この船窓は、函館のリサイクルショップで見つけたもの。
角度や位置によって、雰囲気が変わる場所がたくさんある。
「家の中では窓の外を見る猫の後ろ姿しか撮影できませんが、家の中に窓があったら窓越しに猫が撮れるのではと思いついたんです。船窓をつけることをメインに、猫と人間のためのカフェというイメージで猫の遊び場を作っていきました」とノリエさん。以前、この猫の遊び場と予備室の間にある壁に穴を開けて、ステンドグラス入りの窓をつけたことがあったので、船窓が丸くてもなんとかなるだろうとやってみたら案外うまくできてしまったそう。
キャットハウスは屋根を半分だけ葺(ふ)いてキャットウォークを巡らし、猫たちが楽しく遊べて、撮影もしやすいようになっている。窓辺には猫のための特等席があって、人間がいっしょにくつろげるスペースも設けられている。実は、ノリエさんのご主人は船乗りで、現在は大型船の船長。サトウ家には、方々から贈られた船グッズがたくさんあって、舵輪、ガラスの浮き球、ミニチュアの碇などが、猫の遊び場に港町のカフェのような雰囲気を醸し出している。
細かい部分の作り込みも楽しい
「ここは猫だけのためのスペースなので、思い切り趣味を入れた猫仕様です」とノリエさん。3面ある壁は、漆喰塗りと、レンガっぽい模様の壁紙、ペンキ塗りと全て質感が違うため、それぞれニュアンスの異なる背景で猫を撮影できる。ペンキは刷毛で直塗りが基本。準備もいらないし、空いた時間にちょこちょこできる。ノリエさんは「大雑把なんです」と謙遜するけれど、刷毛に含ませる量をしっかり調整しているからこそできる技。
さらに遊び場スペースの床板もノリエさんが自分で張ったもの。
「傷んだ床板がはがせなくて上から床板を張っています。ただ、上に板を重ねたので物置のドアが開かなくなってしまって(笑)。ドアの下を切って開くようにしました」とワイルドなエピソードを教えてくれた。
大きなドールハウスのような予備室
猫のためのインテリアをメインにした猫の遊び場にあるドアを開けると、そこは女の子が夢見る「かわいい」であふれた小さな部屋。いくつか置かれた小さなピアノは、3年前までピアノ講師だったノリエさんのキャリアを感じさせるアイテム。全体に甘すぎない雰囲気が上品で、置いてある家具が小ぶりなことから大きなドールハウスのように見える。この部屋のテーマは、“外国の子ども部屋”。「実のところ外国の子ども部屋がどんなものなのか知らないので、あくまでもイメージなんです」と笑うノリエさん。
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写真提供:サトウノリエ
淡い壁色とカラフルな小物がキュートな予備室も、窓辺は猫の特等席
特に目を惹くのは、壁に穴を開けてニッチを作り、そこにはめ込まれた棚。ニッチを作る際には壁をトントン叩いて中に柱がない位置を確認し、電線がないかどうかをライトで知らせてくれる専用の機械で調べたそう。3つのニッチは水準器を使って水平を取っているのでバランスがいい。こういうところをきっちりやっているから、完成度が高いのだ。
そして、ニッチの反対にある壁には、カラフルな色鉛筆がきれいに並んでいる。色鉛筆が並ぶ棚ももちろん全部ノリエさんが作ったもの。さらに、ドアのある壁には、マスキングテープをカットしたモチーフが貼られている。パソコンでデザインして型紙を作っており、淡い青壁に白いモチーフという抑えた色使いが優しい。
猫の遊び場奥のカフェスペースでくつろぐサトウノリエさん
窓の猫モチーフは、曇りガラスシートを切り抜いたもの
この部屋の窓辺も猫たちには人気のスペース。テーブルや木製の脚立、小ぶりなキャットタワー、幼い子ども用のイスなどで猫たちが思い思いにくつろぐ。
壁や窓枠、ドア、棚、イスなどは、色をパソコンで組み合わせて確認してからペンキを塗っている。
「ペンキを塗る時は、乾くまで猫が来ないようにしています。丸鋸(まるのこ)など大きな音を立てる作業も猫がうるさがるので別の場所でやりますが、それ以外の作業に関してはうちの猫たちは全く気にしないのでそのままやっています」とノリエさん。実際にキッチン前の棚を電動工具でネジ締めしても、特に気にしていない様子で、猫たちにとってDIYが日常になっていることがうかがえる。ただし、完成するとすぐさまみんなで確認に来るのが面白い。
手作りの味こそDIYの極意
リオ(右上)とギン(右中)は兄弟でマグ(右下)がそのパパ、花ちゃん(左上)とキャンディ(左下)は母娘
ノリエさんにDIYの魅力についてうかがうと、「急いでいるわけでもないので、作り直すこともよくありますが、試行錯誤して頭の中で妄想していた物が実際に形になることは単純にうれしい。それに、この子ってターゲットを決めて作り込んだ場所を、お目当ての子が気に入ってくれた時の満足感は、DIYの醍醐味ですね」と答えてくれた。その後、少しいたずらっぽい表情になって「最強の言葉は、“手作りの味”です。プロじゃないから完成度は気にしない。ちょっといびつなツギハギも手作りの味だと思ったらなんでもOKです。“とりあえず見なかったことにして”が得意技ですから」と笑った。
文・吉澤由美子 写真・じゃんぼよしだ