【猫びより】妹は、ぼくが守る! 福次郎(辰巳出版)
「猫びより」編集部のお隣、日本犬専門誌「Shi-Ba(シーバ)」編集部の井上編集長宅には、実は2匹の兄妹猫がいる。のんびり平和な毎日を謳歌していたのだが、ある日、元気いっぱいの子犬が仲間入りして……!?(猫びより 2018年5月号 Vol.99より)
- 更新日:
海での出会い
2匹の猫が我が家に来たのは、かれこれ8年前のこと。当時飼っていた柴犬の福太郎とともに千葉の海に出かけ遊んでいると、福太郎が何かに感づいたらしく、不意に立ち止まって一方を見つめている。目を向けると1匹の茶白の子猫がこちらに向かってきた。
(こんにちは~。観光かな。何かお困りですか~?)
そんな愛嬌たっぷりの顔で、何度追い払ってもニコニコしながら寄ってくる。興味をそそられた福太郎が猫に向かおうとするのを何とかやり過ごし、帰宅の途につくことにした。無情なようだが、老犬の福太郎がいる我が家で、飼った経験もない猫を迎えることはできない。
そう自分に言い聞かせたが、同行した妻が「かわいそうだからうちに連れて帰ってあげよう」と、車中でごねまくる……。「もう一度、海に戻っていなかったら諦めるから、戻って!」。
ついに根負けして、しぶしぶ先ほどの海に戻ると、なんと2匹に増えている。ぴったりと寄り添って、自分よりやや小さめな三毛猫を守るようにして。
「お兄ちゃんありがとう。チュッ」
こうして、兄の福次郎と妹の幸子は、我が家ではじめての猫となった。
脱走事件
普段は、のほほんキャラの福次郎
やんちゃ盛りの子猫たちは、うっかり柴犬の福太郎の機嫌を損ねるときもあった。それはいつも福次郎で、幸子は後ろの安全地帯で緊張しながら眺めているのが常。結果的に幸子は痛い思いをすることなく、この家のルールを学んでいった。
慎重派の幸子だが、大胆なところもあり、脱走歴が何度かある。大概はしばらくすれば戻ってくるのだが、その日ばかりはいくら待っても戻ってくる気配がない。時間はすでに深夜。さすがに不安になり、庭をもう一度探そうとシャッターを開けた瞬間、福次郎までもが家から出てしまった。
「ばか、お前まで!」
ところが福次郎、その場から動くことなく、大きな声で「ナ~ウ~」と鳴きはじめた。「深夜なんだから静かに!」と慌てて家の中に戻すと、どこからか聞き覚えのある「ニャッ……」という小さな声が。幸子だった。
子犬登場!
数年後、老犬だった福太郎が天に召された。2匹だけの生活が始まると、これまで以上に飼い主に甘え、自己主張をするようになった福次郎。しかし、のんびりとした時間も長くは続かなかった。
子犬が来るまでは平和だった……。リラックスしすぎて面白ポーズ
ある日、いつもより早く帰宅した飼い主を玄関で迎えた福次郎は顔をしかめた。何かが入ったクレートが目の前に置かれたからである。案の定、そこから顔を出したのは、1匹の柴犬の子犬だった。新しい棲家の様子を一通り眺めると、2匹の猫に気がつき、「遊ぼうよ~!」と遠慮なく突進してくる。
「今日の撮影、主役はぼくだよね♪」。キメ顔の子犬・福三郎(4ヶ月♂)の背後で、冷めた目をした福次郎
最初は向かってくるたびに追い払っていた福次郎だが、大人になると猫よりも断然体が大きくなる柴犬の成長は早い。次第に撃退することも難しくなっていった。
毅然とした態度で臨む福次郎だが、パンチの威力は弱そう
しょんぼりとした背中を見せうたた寝をしていると、幸子が突然、悲鳴を上げた。段ボールハウスに入っていた幸子に、子犬が執拗に手を出しているではないか。一向に遊んでくれない福次郎に飽きたのだろう、興味はすでに幸子に移っていたのだ。
福次郎の性格は非常に穏やかで、これまで誰に何をされても怒ったことはない。たまに幸子と取っ組み合っても、最終的にはいつもひっくり返されて負けている。しかし、このときばかりは違った。
(妹を守らなきゃ!)
ケンカなんてしたこともないのに、無我夢中で両手を振り回した。右ストレート、左フック。そして渾身のテンプシーロールがついに子犬のこめかみにヒットした。驚いた子犬はさすがに退散し、しばらくしてダンボールから出てきた幸子を、(ほら、大丈夫だろう?)とばかりにペロペロ舐める福次郎。
「幸子に手を出すな!」。TVの後ろに隠れた幸子を守る福次郎
それからは子犬も反省したのか、しつこく絡むことはなくなった……わけではなく、まだまだ遊びたい盛りのやんちゃ坊主との攻防は続いている。だが、再びにぎやかになった我が家のリーダーは、間違いなく福次郎なのである。
ボスの座は譲らない!
文・井上祐彦 写真・芳澤ルミ子