西武新宿線の小平駅にほど近い、公園や住宅が建ち並ぶ閑静な一角に「焼肉一番」はあります。昭和48年創業、カウンター7席にテーブルが2つの小さなお店を切り盛りするのは、小迫田琳子(こさこだたまこ)さんと、ここで暮らす猫のブチ(♀)。
テーブルの下がブチの特等席
食欲をそそるにおいに誘われて暖簾(のれん)をくぐれば、肉を焼く煙とお酒も入ってご機嫌なお客さんの笑い声に包まれます。テーブル下の特等席を見ると、喧噪をよそにブチが平然と眠っているではありませんか!
「写真撮ってないで注文したら?」と寝ながら営業をかける
動じぬ姿に感心したお客さんが「お前いい度胸してるな。抱っこしてやるから来い!」と抱き上げれば、されるがままに膝の上。喉が渇けば器用にお客さんの足許をすり抜けて水を飲みに行き、定位置に戻って高いびき……。こなれた接客ぶりにさぞかし看板猫歴も長いのだろうと思いきや、まだ1年も経っていないのだそう。
避妊手術を受けたことを示すピアス
「7年前にブチの面倒を見るようになった頃には、すでにかなりの年齢になっていたようです。当時は1m以上近づくことすらできず、結局6年も外で暮らしていましたね」と小迫田さん。何年もかけて触らせてくれるようになり、昨年11月、突然お店で寝泊まりするようになったのだとか。
多い時には店の周りにいる9匹の面倒を見ていた小迫田さん。「地域猫も減ったのでブチが最後の猫になりそう」
すぐにお店に馴染み、初めてお客さんに抱っこされた時には「あんた平気なの!?」と小迫田さんを驚かせました。お客さんに憎まれ口を叩かれるとキッと睨み、慌てて「ごめん、美人!」と持ち上げれば「にゃっ!」と返すほど言葉も通じる。そんな立派な接客ぶりに、ブチ目当てに来る人もいるほど評判は上々です。
最近はよく小迫田さんに甘えるようになったとか
「ブチは私にとってなくてはならない存在で、一緒に働けるのが本当に幸せです。今まで外で辛い思いをたくさんしてきた分、少しでも幸せを感じてくれたら嬉しいです」と言いながら、いとおしげにブチを抱く小迫田さんでした。
原因はわからないが昔から前脚が不自由。人知れず苦労を重ねてきたのだろう
とびきり大きなホルモンはほっぺが落ちるほどの美味。約45年間繁盛してきたのも納得
焼肉一番
東京都東村山市萩山町1-28-12
定休日/木曜
写真・久野大介
Text by Minoru Saito