猫びより
【特集 平成の猫】平成の災害と猫

【特集 平成の猫】平成の災害と猫

昨年、平成30年には、4ヶ月足らずの間に大阪府北部地震、西日本豪雨、台風21号、平成30年北海道胆い振ぶり東部地震が日本列島を襲った。(猫びより 2018年11月号 Vol.102より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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平成全体を見ても、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震などの地震、噴火、台風、水害、土石流など、数多くの災害が発生した。そこで、平成に起こった災害における動物救護の歴史を振り返って、災害から猫を守ることにつなげよう!

動物,犬,猫,しつけ,飼い方,育て方,病気,健康


お話をうかがったのは、(公社)日本動物福祉協会の獣医師、山口千津子先生。
「生まれた時から猫がいて、赤ん坊の頃は猫が面倒をみてくれていたそうです。猫はそばにいるのが当たり前の存在」と話す山口先生は、災害時の動物救護に30年以上かかわってきた。

山口千津子(やまぐち・ちづこ)

山口千津子(やまぐち・ちづこ)

Photo by Jumbo Yoshida

1975年3月 大阪府立大学農学部獣医学科卒業。79~81年 英国・カナダにおいて動物福祉に関する研修を受け、英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)のインスペクターの資格を得る。81年10月 帰国後、(公社)日本動物福祉協会獣医師調査員として、動物福祉の推進や災害時の動物救護活動に携わる。現在、(公社)日本動物福祉協会顧問、環境省中央環境審議会動物愛護部会臨時委員、仙台市動物愛護協議会委員等。

平成3年 長崎県 雲仙普賢岳噴火

空いた豚舎を保護動物のシェルターに

噴火と土石流に加え、一瞬にして集落を飲み込んだ火砕流が大きな被害をもたらした。この時には、獣医師会・愛護団体・自治体がそれぞれ独自に活動。「空いた豚舎に保護した動物たちを預かりました。ケージ以外に豚用の囲いも利用しました」。

平成7年 阪神・淡路大震災

最初の組織的な災害時動物救護

最大震度7、建造物の倒壊だけでなく広範囲な火災による被害も大きかった。獣医師会や愛護団体、そして地元自治体による兵庫県南部地震動物救援本部が設置され、これが日本初の組織的な災害時動物救護となった。

「保護動物のためのシェルターは、とにかく雨をしのげる場所をと最初は農業用のビニールハウス、そしてご寄付をいただいてからプレハブを建てました。阪神大震災で多くのご寄付をいただいたので、残金を基金にして『緊急災害時動物救援本部(現:ペット災害対策推進協会)』を立ち上げ、災害が起こった時、すぐに機材や備品、フードなどを発送できる体制を作りました。

阪神・淡路大震災当時、シェルターにて

阪神・淡路大震災当時、シェルターにて

阪神大震災でご家族すべてを亡くされて、ご本人と愛犬だけが残された方がいました。何度も自殺を考えたその方を思いとどまらせてくれたのはその愛犬だったということです。そういうかけがえのない存在を預かっているという気持ちを忘れずにいたいと思います」

平成12年 北海道 有珠山噴火

避難ストレス解消への工夫

「有珠山噴火では、動物診療室付きの動物救援センターが開設されました。表を自由に出歩いている猫が多く、ケージのストレスで体調を崩す猫がいました。そこで、相性のいい組み合わせで遊ばせる、第2シェルターではプレイスペースを広くとるなどストレスを軽くする工夫をしました」。
有珠山噴火では警戒区域への一般人立ち入りが禁止され、残された動物たちのフードや水は自治体が届けた。

「危険な場所に残された動物の保護や世話をすることは、動物救護だけでなく地域の安全や公衆衛生の観点からも必要ですが、そのためには人手がかかります。動物を連れて安全な場所に避難する『同行避難』について広く知っていただくことが重要だと感じました」。

平成12年 東京都・伊豆諸島 三宅島噴火

猫が一番安心できる場所は家庭

東京都と東京都獣医師会が前もってケージを三宅島に送って全島避難の際の同行避難をサポートし、動物たちを預かった。その後、ガスが出て避難が長期化し、動物のストレスを軽減するために日野市にプレハブのシェルターを建てた。

「シェルターには廊下側の窓がなく、ドアを開けないと様子を確認できないので壁を抜いてアクリルを張りました。シェルターではその場にあるものを使って手作りで工夫しています。ここでは、猫が登る、隠れる、表を眺める、爪とぎできる猫用のジャングルジムを大工仕事が得意なスタッフが作りました」。

手作りの猫用ジャングルジム

手作りの猫用ジャングルジム

このシェルターには、人を見るとシャーシャーと威嚇する猫がいた。スタッフ全員が控えめに声をかけ続けてやっと恐る恐る膝に乗るようになり、見学に来たご夫婦に引き取られることになった。

「しばらくして引き取った方から猫の画像が届いたのですが、無防備におなかを出してくつろいでいました」。

窓の外が見える場所は猫にも人気

窓の外が見える場所は猫にも人気

もう1頭、ストレスからケージにかけられた毛布を食べてしまった黒猫がいた。

「ストレスを軽減できるようプレイルームに高い場所を作り、隠れる場所も用意したのですが、それでも不安だったのだと思います。ところが、ボランティアの方が引き取って家に連れ帰ったらそうした行動は一切なくなりました。この2頭を通じて、猫にとって一番安心できる場所は家庭なのだと改めて強く感じました」。

平成16年 新潟県中越地震

すべての仮設住宅で動物の飼育が可能に

最大震度7、地震による直接被害だけでなく、崩落や地滑りによる孤立、人家の水没などの被害も起こり、一般人の立ち入り禁止区域が指定され、残された動物のために、フードや水を置いて回った。目印に『猫がいます』と紙が貼られていた家もあったそう。

同伴避難


この災害では愛犬と離れたくないと、車の中で一緒に避難生活を送ってエコノミークラス症候群で亡くなった方がいた。

一般人の立ち入り禁止区域にて。配られたフードを夢中で食べる

一般人の立ち入り禁止区域にて。配られたフードを夢中で食べる

「痛ましいことが起こってしまい、残念でなりません。ペットは大事な家族であり、心の支えです。緊急災害時に避難した際にはペットを預けるという選択肢があることを多くの方に知っていただけたらと思います。新潟県中越地震の仮設住宅は、最終的に『すべての仮設住宅で動物の飼育が可能』ということが公にされたはじめてのケースでした。

捕獲器で保護された猫

捕獲器で保護された猫

仮設住宅の入居者のみなさんがお互いに配慮してきた積み重ねがあってできたことだと思っています。被災されたのは集合住宅に住んだことがない方が大半でしたので、新潟県動物救済本部がルールを決めるといったサポートも行っていきました」

救援活動の様子。抱っこで収容

救援活動の様子。抱っこで収容

平成23年 東日本大震災

動物を助けることは人を助けること

最大震度7、沿岸の津波被害に加え、原発の過酷事故により広範囲な地域が甚大な被害を受けた。各県に現地動物救護本部が設置され、シェルターは福島県や宮城県に、市町村では石巻市にでき、仙台市では空いている市の施設でも動物を保護した。さらに多くの動物病院や愛護団体もたくさんの動物たちを保護した。

同行避難の猫を飼い主が世話をする避難所敷地内の猫ハウス(福島市内)

同行避難の猫を飼い主が世話をする避難所敷地内の猫ハウス(福島市内)

仙台市のセンターでは情報を一括管理して預かった動物がどこにいるのかをすぐにわかるようにした。
「シェルターに保護されていた場合も、大事な猫がどこにいるのかわかれば飼い主さんも安心できますよね」。

20キロ圏内から保護された猫

20キロ圏内から保護された猫

東日本大震災では、原発事故があったことで動物救護も困難を極めた。

猫を連れてくるためキャリーを持って一時帰宅する飼い主

猫を連れてくるためキャリーを持って一時帰宅する飼い主

「20キロ圏内から避難した方は情報がなく、翌日に戻れると思っていたので多くの動物たちが残されました。探したくても警戒区域には入れない状況の中、救出された動物たちもいましたが、助けられなかった動物たちがもっともっとたくさんいたことが残念でなりません。『動物を助けることは人を助けること』というのは、『人と暮らす動物を積極的に助けなければ人が危険にさらされる』のだと東日本大震災で広く認識されるようになりました」。

福島県動物救護本部三春シェルターに保護された被災猫

福島県動物救護本部三春シェルターに保護された被災猫

これを教訓に、環境省は平成25年に『災害時はペットの同行避難を原則とする』というガイドラインを策定した。

東京都動物救援センター。「CAT」の棚は、最後に猫といっしょにもらわれていった

東京都動物救援センター。「CAT」の棚は、最後に猫といっしょにもらわれていった

平成28年 熊本地震

ペット同伴スペースをわけた避難所も

最大震度7の地震が2回起こり、さらに周囲の地域にも地震が頻発した。熊本地震ペット救護本部が設置され、特に被害が甚大だった益城町や熊本市では一時預かりのシェルターができた。一方、避難所では対応が場所によって異なった。実際の避難所運営は現場の判断に任される。熊本市では『避難所の居住スペース部分には原則として動物の持ち込み禁止』とした。

救護本部では医療的なケアも可能だ

救護本部では医療的なケアも可能だ

「これまでも自然発生的にペット同伴専用スペースを設けた避難所がありましたが、熊本地震では話し合って犬や猫を保護する専用区域を作った避難所がいくつかありました。こうした避難所はルールを決め、動物が苦手な方やアレルギーがある方も安心できるようお互いに歩み寄って実現できたのだと思います」。

避難所廊下に並ぶペット用救援物資

避難所廊下に並ぶペット用救援物資

猫と災害を無事に乗り越えるために

最後に、猫と暮らしている私たちが災害に備えておくことを山口先生にうかがった。

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「まずは、首輪と迷子札かマイクロチップを必ず装着してください。はぐれても再会の手がかりになります。そして、住んでいる場所にどんな危険があって、どこに避難したらいいのかを調べて、避難袋に猫用の避難グッズも入れておきます。キャリーはいつも出しておいて、猫が安心できる場所にします。あとは、猫単体だけでなく、自分と猫が写っている画像をスマホなどに入れておいてください。飼い主証明になります。子猫の時の写真しかないこともよくありますが、必ず現在の画像も入れてください」と山口先生。

同行避難の対策だけではなく、はぐれた時のために、さっそく愛猫との2ショットを撮影しよう!

いざという時のために

ワクチン接種
避難生活でリスクが高まる感染症を未然に防ぎ、万が一発病した場合も重症化を防ぐことができる。

洗濯ネット
閉塞感がないのに包まれる安心感があり、興奮して逃げそうな時に有効。いつも出しているキャリーに入れておくと自分の匂いがつくのでより安心する。

複数の避難ルートを確認
火災などで通れない場合に備え、複数のルートを実際に歩いて確認。

猫ネットワークを作る
猫つながりの仲間を増やして、いざという時に情報を得やすくする。

遠距離の猫友だち・猫好きの親戚と預け合う
事前に相談しておき、災害時には無事な方が迎えに来て預かるようにする。

自治体に動物との同行避難について問い合わせる
自治体によって対応が異なるので、今のうちに知っておく。

緊急災害時同行避難袋チェックリスト
下記サイトからプリントアウトして記入し、猫単体・飼い主と猫の写真を入れて猫用避難グッズとともに避難袋に入れる。猫の健康データも記入できるため、シェルターでも投薬や処方食など適切な世話をしてもらえる。

公益社団法人 日本動物福祉協会のサイトからダウンロードできます
http://www.jaws.or.jp/activity01/activity06

文・吉澤由美子 写真提供・山口千津子 イラスト・おかやまたかとし

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