【猫びより】Nyamour(ニャムール) ♡ パリより猫に愛を込めて[2]【from France】
【Cat News Network】(猫びより 2019年3月号 Vol.104より)
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ディズニーに行くよ!
家具の取り付けで壁に穴を開けてもOK! というパリの賃貸事情は、ペットを飼うことにもとても大らか。
日本でも猫と暮らしていた真由美オリエさんが、結婚を機に保護猫ナル(♀)と暮らすようになったのは2016年からだが、ナルを通してフランスと日本の猫の違いや、パリッ子の気質を感じると話す。
「勝手知ったる」と言わんばかりに、公園では歩みを止めないナル
「日本で飼っていた猫はお魚が大好きだったのですが、ナルはがっつり肉食系。キャットフードも肉主体です。日本から持ってきた鰹節はスルーして、バターなどの乳製品にも目がありません。またユーロディズニーの近くにある主人の実家に、週末にナルを連れて遊びに行くと、ナルは一日中飽きることなく実家の庭で遊んでいます。
仕事が終わったご主人のグザビエさんと、公園で待ち合わせ
でも呼ぶとすぐに戻ってくる。野性的なのに人懐っこくて従順な子です。私たちのアパルトマンは広くはないので、ナルをパリでも外でのびのびと過ごさせるために散歩してみようと思いつきました」
パリの魅力のひとつは公園が多いこと。ハーネスを付けながら「ディズニーに行くよ!」と声をかけると、ナルは外出なのだと理解する。近所の公園では、真由美さんを先導するように臆することなく歩くナル。
土と草って、やっぱり気持ちいいニャ♪
そんな一匹と女性を見て、パリッ子が黙っているわけがない。見知らぬマダムたちは遠慮なく「そのハーネスはどこで買えるの? 私も猫を散歩させたいわ!」などと声をかけてくる。「パリッ子はよくも悪くも、自分に正直ですね。犬以外の動物が散歩していることに好奇心が隠せないみたい」と真由美さんは笑う。
ナルはパリの風景に溶けこんだ猫である。
パリの賃貸は、基本的にすべてペットOK。猫とも気兼ねなく暮らせます
猫はかすがい
6区でレストラン「ス・レ・スリジエ(桜の木の下で)」のオーナーシェフとして活躍するさくらフランクさん。ガストロノミーの都パリで、パリッ子たちの舌と胃袋を満足させる仕事は魅力的だがストレスもある。
テーブルの上に置かれたフルーツの香りに興味津々
「愛猫ミルフィーユ(♂)とくつろぐことで、やっと肩の力が抜けます」というさくらさんの生活へ、5年前に割り込んできた(?)のが結婚したご主人、幸宗(こうしゅう)さんだ。「主人はペットと言えば金魚しか飼ったことがなかったので、最初はソファでミルフィーユの横に座るときにも、『側にいてよいですか?』と敬語を使っていました。でもミルフィーユは主人に距離を置いていて……」。
レストランと同様、美しい自宅で「僕も家族のひとり!」と堂々と振る舞うミルフィーユ
だがある日、さくらさんと幸宗さんが大喧嘩に。「僕はこの家を出る!」と啖呵を切った幸宗さんに、なんと初めてミルフィーユが膝に乗り、手の甲をペロペロと舐め始めた。
「ミルフィーユが別れを引き留めているのだと、心がぐらつきました。ミルフィーユは人間以上に『ありがとう』や『ごめんなさい』を伝えられる、コミュニケーション能力が高い猫です」
猫はかすがい。幸宗さんもすっかりミルフィーユと仲良しに
その後も些細な言い争いがあると、ミルフィーユは不穏な気配を感じてテーブルの下に隠れつつ、言い争いで不利な人の側にチョコンと寄り添う。「家族がひとつになるのを待つ様子は、とても感情豊かで、『僕も家族のひとりだよ』と言っているよう。猫はかすがいですね」。
ディナーの準備でさくらさんが忙しいときは、テーブルの下で控えます
今ではレストランのソムリエを幸宗さんが務め、レストランの経営はさくらさんとの二人三脚。「ス・レ・スリジエ」の繁盛を見守っているのは、一匹の猫なのかもしれない。
(写真・文 堀 晶代)
Akiyo Hori
日仏を往復するワイン・ライター。著書に『リアルワインガイド ブルゴーニュ』(集英社インターナショナル)。大阪の自宅には拾ったメインクーンとアメショーが2匹。