猫びより
【特集 猫の最前線】最新猫研究② 猫も思い出を持っている?

【特集 猫の最前線】最新猫研究② 猫も思い出を持っている?

何度も経験したことだけでなく、たった1回だけ起こったことを猫が覚えていて、そうした記憶を後から思い出している。そんな可能性を示す実験結果が報告されている。(猫びより 2019年7月号 Vol.106より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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賢くなければ、こんなに人間を翻弄できるわけがないと思っていたけれどやっぱりそうだったかとワクワクしながら、研究を行った京都大学の藤田先生にお話をうかがった。

猫の心を研究するCAMP−NYAN

猫は時に哲学的な表情を見せることがある。猫が人間の社会を冷静に観察しているように見えることから、夏目漱石の『吾輩は猫である』やポール・ギャリコの『猫語の教科書』などの名作が生まれた。とはいえ、猫の認知能力についてはまだよくわかっていない。

そんな中で、猫が思い出を持つ可能性を示す実験結果が報告された。この実験を行ったのは、動物の心を研究している京都大学の藤田和生先生と猫研究を藤田先生とともに行っているCAMP−NYANのメンバー。

この場合の“思い出”は、「ここに来たらごはんがもらえる」といった単純な知識ではなく、「いつ、どこで、なにが起こったのか」という文脈を持ったエピソード記憶。偶然起こった1回きりのイベントの記憶を後から思い出すことができるかどうかを調べる実験だ。

CAMP−NYANメンバーの千々岩眸(ちぢいわひとみ)さんは、「個人的にネコ好きとして、ネコが思慮深そうな顔で外を見ている姿に、昨日のことを思い出したりしているのかなと気になっていました。『猫は三年の恩を三日で忘れる』ということわざがありますが、長期不在だった飼い主を覚えているというエピソードも聞いていて、ネコの記憶について調べたいと思いました」とこの研究をはじめたきっかけを説明してくれた。

4種類の食器を用いた実験

実験は色や形が違う4種類の食器(ABCD)と、同じものをもう一組(A'B'C'D' )用意して行われた。

最初、4種類の食器のうち、ABにはフードを入れ、Cには猫が特に興味を持たない小物を入れ、Dは空っぽの状態で部屋に置いてから猫を入室させる。

色や形が違う4種類の食器を用意する

色や形が違う4種類の食器を用意する

猫にはABCDすべての食器を調べさせるが、Aのフードは食べさせて、Bは中にフードがあることを認識させるだけで食べさせない。その状態で猫を部屋の外に出し、ABCDを撤収。

Aのフードを食べさせてBはフードがあることだけを認識させて食べさせない

Aのフードを食べさせてBはフードがあることだけを認識させて食べさせない

今度はすべてが空っぽのA'B'C'D'を先ほどと同じ場所に置く。これは食器にフードの匂いを残さないための工夫だ。

同じ場所に空っぽの食器を置く

同じ場所に空っぽの食器を置く

しばらく時間をおいて同じ猫をその部屋に入れると、B'の周りを探索する行動がみられた。前にフードを食べたA'ではなく、B'は「自分がまだ食べていないためフードが残っているはず」の食器だ。

「フードが残っているはず」のB'に行く

「フードが残っているはず」のB'に行く

そのB'を調べる行動をとるというのは「どの容器にフードが入っていたか」「どの容器にフードが残っているはずか」ということを猫が記憶を辿って思い出していたからこそできること。この実験結果によって、猫がエピソード記憶を持つ可能性が示されたのだ。

実験を担当したCAMP−NYANメンバーの高木佐保さんは、「ネコちゃんがフードを食べてくれさえすればできる実験ですが、ネコちゃんにはこだわりの強い子が多く、マイ食器でしか食べたくない子・好みのフード以外は口にしない子が結構いました」とその苦労を教えてくれた。

猫の記憶とその能力

「ネコは単独で狩りをするハンターですから、どこで・どのようにして・なにを捕まえたという情報はとても重要です。記憶能力というのは進化的にはかなり古いものだと考えられているので、イエネコの祖先であるリビアヤマネコなどもこうしたエピソード記憶を持っていると考えられます」と藤田先生。

猫がなにかを人間に要求する時、甘えることもあるが、人間が大事にしているものを落として壊すなど嫌がることをすることもある。注意を引こうとする際に行うこうした駆け引きのようなテクニックも、「いまここ」にないものを思い描く能力があるからできると考えられるそう。

猫の記憶とその能力

写真:じゃんぼよしだ

「身近な動物が素晴らしい能力を持っていると知ることは、生き物すべてに対する敬意につながります」と藤田先生。動物と人間の双方に優しい社会へと近付いていくためには、こうした知識が広まることが重要なのだ。

藤田先生は、「思い出を持つというのは、自分で自分のこころを客観的に覗くようなものであり、以前は人間だけしか持っていないと考えられていたほど高度なこころの働きです。そして、ネコが思い出を持つとすると、未来を考える能力を持っていてもおかしくありません。今後は、そうした部分も調べてみたいですね」と教えてくれた。

哲学的な表情をしている猫は、なにかを思い出したり、未来を楽しみにしたり、心配したりしているのかもしれない。そう思うと、猫を見る時の楽しみが大きく広がったように感じた。

CAMP-NYANのメンバー。一番右が藤田先生(写真提供・CAMP-NYAN)

CAMP-NYANのメンバー。一番右が藤田先生(写真提供・CAMP-NYAN)
https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/psy/camp2017/index.html

藤田和生先生(京都大学大学院文学研究科 名誉教授)

文・吉澤由美子
イラスト:Yuko Saito

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