猫びより
【赤ひげ先生インタビュー】金子泰広

【赤ひげ先生インタビュー】金子泰広

(猫びより 2019年11月号 Vol.108より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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半身不随の黒猫のクララがお出迎え

今号の赤ひげ先生は、「アニマルクリニックイスト」(神奈川県海老名市)の金子泰広先生。病院は、相鉄線「かしわ台駅」から、緩やかな坂を下り徒歩5分。歩いても車でも通院しやすい場所にある。

事前に金子先生から伺ったところによると、病院には看板猫がいて、名前はクララ(7歳♂)。
「半身不随ですが、前足で元気に走り回っています」というお話のとおり、診察室に現れたクララは元気そのもの。知らない人の訪問に、少々警戒しつつも、「ヴニャ~」と、ちょっとだみ声でご挨拶。ちなみに金子先生は、やや目が座り気味で、だみ声の猫が好きなのだそう。

猫派! を自称する金子先生と看板猫のクララ

猫派! を自称する金子先生と看板猫のクララ

クララが病院の猫になったのは、1歳の頃。「交通事故が原因で半身不随となり、安楽死の要望もありましたが、うちで引き取ることになりました。排泄は、介助することもありますが、自力でできたりもします。診療中は、奥の猫舎で過ごしますが、休憩時間はフリーで、院内で自由気ままに過ごしています」。猫舎には、クララ専用のスペースがあり、「クララの窓」と書かれた段ボール箱が大のお気に入りだとか。

院内は、ストレスに弱い猫の気持ちを考えて、第1、第2診察室のうち、第2診察室が猫専用。また、毎週木曜日の午後にキャットアワーを設け、「他の犬や猫がいると、怖くてドキドキしちゃってダメ!」という猫の予約診療も実施している。

また、2017年には、猫に優しい病院だけが認定される「キャットフレンドリークリニック(CFC)」を取得した他、より詳しい猫の知識を持った獣医師や動物看護師が認定される「CATvocate」を金子先生や看護師さんが取得。ハード面では「ゆくゆくは猫が自由に遊べるスペースなど、猫が過ごしやすい環境を整えたい」と、猫愛あふれる動物病院なのだ。

「CATvocate」認定バッジ

「CATvocate」認定バッジ

キャットフレンドリークリニックの認定書

キャットフレンドリークリニックの認定書

できる手術は行って、動物と飼い主さんの負担を最小限に

金子先生が獣医師を目指した背景には、父親が開業する動物病院で、子どもの頃から動物に触れていたことがある。
「あたり前ですが、父の病院には猫や犬がたくさんいて、病気やケガで元気のない子、治療を受けて元気に退院していく子を毎日のように見て育ちました。そんなことから、物心ついた頃から動物が病気になったら治してあげたい、と思うようになり、父と同じ道を進むことにしました」

大学時代は、「猫の病気の治療に役立つ研究を」と、5年次に伝染病学研究室に入り、猫エイズや伝染性腹膜炎(FIP)などについて学び、卒業後は、東京大学附属動物医療センターの外科系診療科で2年間、研修医として勤務。修了後、まもなく「アニマルクリニックイスト」を開院した。

入院中の「こまちちゃん」を診察。入院時は緊張していたが、すっかりフレンドリーに

入院中の「こまちちゃん」を診察。入院時は緊張していたが、すっかりフレンドリーに

「大学6年生のとき、同じ研究室の先輩の獣医師から研修医のお話を頂き、興味のあった外科を学ぶことにしました。東大医療センターでは、名だたる先生方の手術の助手をさせていただき、事細かく指導していただきました。その貴重な経験を積んだからこそわかる手術のリスクを飼い主さんと十分にお話しした上で、大学病院などの2次診療施設へのご紹介も含めて検討し、それでも自分に任せていただける子の手術は全力で行います。つい先日も交通事故で、背骨などに重症の骨折を負った猫の手術をしました。かなり大がかりな手術でしたが、無事に治癒となりました。2次診療に転院という場合、診察まで日数を要したり、遠方で通院が大変ということもありますが、たいていの手術がここでできることで、飼い主さんと動物のお役に立てているかな、と思います」

治療の成果は、飼い主さんと動物の「がんばり」のおかげ

今年で開院11年目を迎えた「アニマルクリニックイスト」。ist(イスト)の意味は、Specialist(専門性)、Generalist(幅広い診療知識)、Animal welfaregeist(動物愛護の精神)の3つを合わせたもの。一般的な診療知識を備え、専門的な技量を持ち、真心をもって接していきたいという金子先生の思いが込められている。

この思いは金子先生が提供する医療の細かいところに生きていて、動物と飼い主さんに寄り沿った「夜間診療」の実施もその一つだ。

ゴールデンレトリーバーの「にょっき」、クララとスタッフみんなで

ゴールデンレトリーバーの「にょっき」、クララとスタッフみんなで

「かかりつけの方限定になりますが、通常診療が終わった後の19時から22時まで、夜間診療のホットラインを設けています。相談は、飼い主さんが抱えるちょっとした不安から、『痛がっていて見ていられない』など具体的な症状など様々で、お話を聞いてアドバイスするだけで解決することもありますし、診察が必要という場合は来院していただき診察します。その場合『今夜は、一番つらい症状をお薬で緩和して、明日、改めて治療を進めましょう』という流れになるだけで、動物と飼い主さんの負担はかなり軽減します。確かに、電話を受ける私たち獣医師にとっては、緊張の3時間ですが……(笑)。でも、後日、『あのときは本当に助かりました』など、飼い主さんから感謝の言葉をいただくと、これからも続けていきたい、と思います」

また3月と9月には、健康診断を呼びかけ、年代別に3つの健診コースを用意して、安価で実施している。

「健診でわかることは多く、シニア猫では、飼い主さんから『ジャンプをしなくなった』『排泄が下手になってきた』『夜鳴きがひどい』といった日ごろの様子を伺うことで、シニア特有の病気や異変の発見につながります。他に、正確な体重測定も大切で、体重が落ちているというだけで、何も症状がなくても病気が疑われ、治療につなげることができます」

たいていの手術は院内で行われるため、飼い主さんも安心できる

たいていの手術は院内で行われるため、飼い主さんも安心できる

そうした日々の診療の中で、金子先生がいちばんうれしいと感じることは、手術を受けて入院していた子、あるいは、自宅で治療を続けた子が、元気になって、またもとの生活に戻ること。

「例えば、飼い主さんに『1週間、お薬を飲んで様子を見ましょう』とお伝えし、1週間後に診察すると、とても状態がよくなっている。動物病院の日常としては、ありきたりの光景かもしれませんが、これは飼い主さんが私の説明をしっかり受け止めて、お薬を飲ませてくれたことが導いた成果です。また、苦手なお薬を飲んでくれた動物のがんばりもあります。治癒を招いたのは私の力ではなく、飼い主さんと動物のがんばりがあってのこと。そんなことに感謝しながら診療できることに、日々、この仕事の喜びを感じますね」

Dr.アドバイス 伝染性腹膜炎に注意!

Dr.アドバイス 伝染性腹膜炎に注意!


伝染性腹膜炎(FIP)とは、腹膜炎や腸炎を起こす病気。猫の胎内でコロナウイルスがFIPウイルスに突然変異することが原因で、一度発症すると治癒が難しく、死に至ります。有効なワクチンもありません。外猫のほうが多いといわれますが、実はそうでもなく、ペットショップで購入した純血種の発症例も少なくありません。発症は2歳未満、多くは1歳未満に発症しますので、嘔吐や下痢、高熱による活動低下、地肌が黄色い(黄疸)などの異変を感じたらすぐに受診してください。早期対応で症状の緩和をはかることができます。

アニマルクリニック イスト

アニマルクリニック イスト


神奈川県海老名市柏ヶ谷682-106
TEL 046-292-1112
診療時間:9:00~12:00、16:00~19:00
※夜間診療はかかりつけのみ。無休
https://ac-ist.com

Kaneko Yasuhiro
2006年北里大学獣医学部獣医学科卒業、2006年東京大学附属動物医療センター外科系診療科研修医を経て、2008年アニマルクリニックイスト開院。

取材・文 西宮三代
写真 平山法行

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