パリで自由猫を守るには?
パリの路上で猫を見かけることは滅多にない。しかし保護団体のひとりとして、外で暮らす猫たちの世話を続けているクリスティーヌ・レイさんは言う。
「市内では、少し静かな19区や20区(パリ東部)の公園や、墓地に猫を捨てる人が増えています。市の行政はこの問題に取り組んでいないので、どの保護団体もキャパシティは超えています」。
自由猫の世話を14年来続けているクリスティーヌさんと、公園に住む猫の一匹、ココ(♀)
屋外で猫が暮らしやすい場所は限られている。激しい交通量、犬の多さ、地下の駐車場に閉じ込められる危険……。保護団体はノラや捨て猫を捕獲し、避妊・去勢手術や個体識別をした後、外で暮らせそうな猫は「chats libres(自由猫)」として、安全な場所で世話をする。里親を探すこともある。
パリには観光名所ではない、地元の人が集う小さな公園がたくさんあります。
犬の散歩が禁止されていることも多く安全で、公園の管理人さんたちとも仲良し
「捨てる人が後を絶たない一因に、子供の猫アレルギーなど、現代人に増えている多様なアレルギーもあります」。
自由猫たちへ生きる場を与えているのは、公園や墓地の管理人たちの裁量だ。公に寝床などは作れないが、猫たちは人目につかない管理人部屋などで雨や寒さを凌ぐ。
クリスティーヌさんの自宅で里親を待つルーピノー(♀)
「外からは見えない中庭に、建物の住人のゴミ箱を設置することが多いパリでは、未だにネズミに悩まされます。でも建物の敷地内に猫を招き入れることで、ネズミの害が激減した例もあります」。
猫を守るのは管理人さんたちの裁量。管理人室では雨風や寒さを凌げます
個人として飼うだけでなく、パリに住む者として猫の存在を受け容れることも、ひとつの解決策なのかもしれない。
パリ初の譲渡型保護猫カフェ
昨年2月、13区に譲渡型保護猫カフェ「Le Moustache Café(髭カフェ)」がオープンした。動物をビジネスにしてはならないという考えが浸透したフランスでは、猫カフェにも「命を尊重する」という明確な理念が求められるが、譲渡を目的とした猫カフェはパリで初めて。
明るい店内で、猫同士の相性も〇。
もっとも大きな特徴は、カフェの保護猫の所有者が、パリや近郊の保護団体であるということ。つまり猫たちにとって必要な食事や医療費などは保護団体が負担する。
オープン約1年半で、72匹の猫に里親が見つかりました
広い保護施設を持つことが難しいパリでの里親探しは、猫のホストファミリー(一時預かり家庭)を経ることが多いが、ホストファミリーとアポイントを取るには、一手間かかる。しかし猫カフェなら、里親になりたい人は好きな時間に何度でも来て、家族として迎え入れられそうな猫を、ゆっくりと選ぶことができる。
吹き抜け風の店内は80平米と広く、2階には40平米の休憩スペースも。
約15匹が快適に過ごせます。
高齢者には未だに敬遠される黒猫の魅力も、積極的に紹介
「子猫の可愛らしさだけで安易に猫を飼う人もいますが、猫は成長するからこそ魅力を増します。15歳の猫に里親が見つかったときは、とても嬉しかったです!」とは、カフェのオーナーであるアメリーさんとアリスさんのバシュレ姉妹。
取材当日も、新しい保護猫がやって来ました。
アメリーさん(右・姉)はカフェをオープンする前もホストファミリーとして貢献。
アリスさんは大阪に住んだこともある親日家
「ロンロン・セラピー(猫が喉を鳴らすロンロン=ゴロゴロが人を癒やす)」という見解も広まり、カフェでは猫たちを眺めながらのヨガや太極拳のイベントも開催している。癒やし癒やされ、助け助けられる。都会で猫と人が暮らす新しい形だ。
Le Moustache Café
10 Rue Raymond Aron 750 13 Paris
※メトロ6号線「Quai de la gare」より徒歩3分
定休日/月・火曜
https://www.lemoustachecafeparis.fr
Hori Akiyo
日仏を往復するワイン・ライター。
著書に『リアルワインガイド ブルゴーニュ』(集英社インターナショナル)。
大阪の自宅には拾ったメインクーンとアメショーが2匹。
(写真・文 堀晶代)