【猫びより】【ニッポン猫旅】京都老舗タクシーが撮る猫たち（辰巳出版）

話題のハッシュタグ

今年創立60周年を迎える京都の老舗タクシー「MKタクシー」。公式Twitterでは元々観光客向けに、撮影スポットや花の開花状況など四季の風景を届けたり、ツアー紹介などを行っていたが、さりげなく写りこむ猫たちの姿が評判となり、3年前から正式にハッシュタグが付いた。

広報の仕事で同行した現場にて。猫に遭遇して目を細めるドライバーさんをパチリ（撮影・今井さん）

「＃MK猫写真」で検索すると、京都の重層的で美しい風景を背に、福々としてチャーミングな表情を見せる京都の猫たちの姿が楽しめる。

営業部の女性が社内のコンテストに出品した一枚。クオリティーの高さが窺えます

タクシー界の岩合さん！？

評判は評判を呼び、そのクオリティーの高さとにじみ出る猫愛で「もしやタクシー界の岩合さんなのでは！？」と、猫好きフォロワーの間で早くから話題に。「私も写真展に毎回足を運ぶほど大ファンなので、すごく嬉しいです」と、広報の今井さん。

彼女が、ドライバーさんやさまざまな部署から送られてくる写真に目を通し、時流やトレンドを意識した簡潔なコメントとともにTwitterに上げているのだ。今井さんも小学生の頃からの猫好きで、大学時代は猫カフェでのアルバイト経験も持つ。カメラはTwitter担当になった3年前から。

「別の上司から送られてきた一枚ですが、そっけないぐらいが猫にはモテるのかも」と今井さん

「まだまだ初心者です」とのことだが、広報として立ち合いの現場に赴く際には、岩合さんと同じオリンパスを携帯して猫との一期一会を心待ちにしている一人だ。

プロ級の腕前

そんな今井さんの上司で、まさにプロ級の腕前なのは、経営企画部の山名さん。Twitter上でも度々登場する「上司」の一人で、カメラ歴は15年。社内でもフォトコンテストを主催する大ベテランだ。

京都らしい真っ赤な鳥居をバックに黒白のコントラストが美しい（撮影・山名さん）

山名さんの場合は猫に「好かれる」タイプのようで、京都の景色をカメラに収めていたら、なぜか足元に擦り寄ってこられることが多く、いつしか猫の可愛さに目覚めてカメラを向けるように。

見返り美人。チャームポイントを分かっています（撮影・山名さん）

「最近は、皆さんに猫写真で『いいね』を多くもらうようになって、撮影の比重も変わってきましたね」と、山名さん。

絶妙な距離感

他にも猫を撮る社員さんはいるが、共通しているのは自然体で絶妙な距離感に、猫たちが心開いていることだ。そこが、日々SNSで大量に流れてくる写真の中でもひときわ猫好きの目を引き、フォロワーの心を捉えている。

猫の手にかかればこんな場所も寝床に。猫好きならクジは引けずとも大吉！（撮影・今井さん）

「よく『またたびを持参されるんですか？』と聞かれることもあるのですが、猫に無理強いしたくないので、誰もまたたびはおろか、オヤツやオモチャを持ち歩いたりもしません。

本堂の正面でドライバーさんが近づいても「参拝御自由に」な猫たち（撮影・今井さん）

寝ている時には起こさないように、サッと撮らせてもらってその場を後にします。Twitter上で場所を特定しないのも、万が一猫たちが安住の地を追われてしまうことを望んでいないからなんです」と、今井さん。

梅雨、小雨を避けるようにくっつく軒下の3匹。「雨音だけの素敵空間でした」（撮影・今井さん）

思わぬ招き猫効果

ガツガツしない、徹底した猫ファースト。当初は今井さんも猫写真を上げることに、社内外から「本業をおろそかにしている」と声が挙がることを危惧していたというが、意外にも反響は真逆だった。

「可愛い」や「癒される」だけでなく、最近では「心の免疫力上がりそう！」という声や、「猫に優しいってことはきっと運転も優しく、乗客にも適度な距離感で気配り上手なドライバーさんが多そう！」との声、こうして猫写真を送りあえる社内の雰囲気の良さを察する声まで。

「8月、親子が夏休みの大冒険をしているようでした」（撮影・今井さん）

さらに、4年前は1600人と伸び悩んでいたフォロワー数も、2016年には今井さん自身がイラストを描いて呼びかけた「猫バンバン※」の4コマツイートが大きく〝バズる〟などもあり、今ではタクシー会社としては異例の約5万1000フォロワーを抱えている（2020年3月時点）。

※冬に猫が暖を取るためにボンネットなどに入ってしまって起こる事故を防ぐため、発車前に車を叩いて確認しようと広まった試み

「猫バンバン」ツイートにも登場したミニカーと」（撮影・今井さん）

ねこタクシーも運行開始

社内で話題に上ることも増え、すっかり市民権を得た猫たち。一昨年からはTwitterの声を参考に、2月22日の「猫の日」に合わせて、猫のしっぽなどの装飾を施した「ねこタクシー」を期間限定で運行しはじめ、大きな話題となった。

任命されたのは「社内一の猫好きドライバーの呼び声高い」というハイヤー課の大石さん。猫の魅力は「ストレスを感じさせない、マイペースでのんびりゆるりとした行動。意外とよく伸びて柔らかい、もふもふしているフォルム。美しい瞳や所作、その他すべて！」と語る。

「ねこタクシー」。昨年は「ニャン」にちなんで2台が限定走行

「京都は他の地域に比べて比較的猫が暮らしやすいのかもしれません。大概毛並みが綺麗なのも、京都人に猫を愛でたり大事にする人が多いせいではないでしょうか。お寺で飼われていたり、カフェやレストランの看板猫として職を持っている猫もたくさんいます。そういった共存意識の高さも住みやすさの秘訣かもしれませんね」と大石さん。

MKタクシーではコミュニケーションができるロボット「ロボホン」と京都名所を巡るツアーも（撮影・今井さん）

視線は下向き、心は上向き

「街中にお寺や神社が点在しているので敷地内に猫がくつろげる木陰や、池や川などの水場も充実しているのも大きいかもしれません。それに、京都の猫は観光客の往来に慣れているので、意外な場所で出会えるのも楽しみのひとつです」と今井さん。

北白川疎水。桜を撮ろうとして偶然出会った瞬間（撮影・山名さん）

「今の時期、皆さんが桜を見上げている時にちょっと足下を見てみてください。木の根元に丸まって擬態していたり、『めっちゃここおるで（笑）！』っていう隠れ家が観光地のど真ん中でも結構あるんですよ」。

「皆様、落ち葉に飛び込む時には注意してください」（撮影・今井さんの先輩）

執筆時は一連のコロナ騒動真っただ中でみんな「コロナ疲れ」を纏い、街も閉塞感や先の見えない不安感が漂っているが、わずかでも終息の兆しが見えることを祈って、視線は下向き、でも気持ちは上向きに。フォロワーさんの素敵なコメントをお借りして、MK猫写真で“心の免疫力も上げて”いこう！

エムケイ株式会社

京都府京都市南区西九条東島町63-1
TEL 075-555-3132（代表）
TEL 075-778-4141（タクシー配車センター）
https://www.mk-group.co.jp
Twitter：@MKofficial_PR

文・高橋美樹
写真提供・MKタクシー