ヨーゼフさんとミカエラさん夫婦は、オランダとの国境に近いドイツのケーヴェラーにある農場で、およそ160匹の動物たちと暮らしている。動物好きの2人は深い愛情と誠意を持って馬、ポニー、ロバ、猫、犬、山羊、羊、牛、アルパカ、鶏、クジャク、ガチョウ、七面鳥、アヒル、カナリア、ハト、亀など大小様々な動物たちの世話に励んでいる。
ミカエラさんは、この農場は動物の保護施設ではなく、あくまで動物たちが安心して暮らせる非営利の"サンクチュアリ(聖域)"だと言う。病気になって引き取り手のない動物や、過去に虐待を受けたことのある動物、飼育環境があまりにもひどい動物たちをスペースと時間とお金が許す限り積極的に受け入れ、彼らが天寿を全うするまで責任を持って面倒をみているのだ。
夫のヨーゼフさんは資金調達のために平日は他の仕事をして働き、通常は妻のミカエラさんが1人で160匹の動物たちの面倒をみているというから頭が下がる。たまに助っ人でボランティアが来てくれることもあるけれど、それだけの数の動物たちを基本的には夫婦2人で24時間、365日ほぼ休みなしで面倒をみているというからすごい。もちろん動物たちの世話にはエサ代や医療費など毎月多額の資金が必要なので、善意の寄付なしではなかなか農場の存続自体が難しいという厳しさもある。
呼ぶと近寄ってくる温和な牛たち
ヨーゼフさんとミカエラさんのモットーが〝動物優先主義〟だけあって、ハードワークの厩(うまや)の掃除が終わった途端に早速戻って来て大きな〝モノ〟を落としていく馬や、華麗な羽を広げて鶏たちに自分の美しさをアピールするクジャク、呼ぶとうれしそうに近寄ってくる牛やロバなど、ここではみんな幸せそう。
怖いものなしのボス犬・ホープ
はるばるルーマニアからやって来た左前脚がない雑種犬ホープ(6歳♀)は犬たちのボス。とにかく〝自分優先主義〟の彼女は、他の犬たちが可愛がられているのが許せず、すぐにやって来て追い払い、自分のない左前脚を差し出すという。「この子ったら、そうやってかわいそうなフリをしていつも人目を集めるのよ。賢いでしょ?」とミカエラさんは笑う。
病に負けず仲間たちと元気に暮らすボリス
農場で暮らす12匹の猫たちの中で一番人気はボリス(年齢不詳♂)で、ここに連れて来られた時はガンで余命わずか3週間と宣告されていたにも関わらず、ミカエラさんの愛情のおかげか、1年経った今も元気で暮らしている奇跡のような存在だ。ボリスは病気で抜け落ちてしまった歯を気にすることもなく、大きなだみ声でぎゃうぎゃう鳴いて甘え、人気を集めている。
男同士で相思相愛のヨーゼフさんとミロ
最近仲間に加わったベンガルのミロ(12歳♂)は老夫婦に飼われていたが、妻のイングリッドさんが亡くなり、夫のハインツさんだけでは世話をするのが難しいため農場に引き取られた。以前のミロは臆病で攻撃的な性格だったが、大きな体とハートが魅力のヨーゼフさんと出会い、すっかり意気投合。前は触ることすら難しかったミロが、大好きなヨーゼフさんにおとなしく抱っこされている姿に誰もが驚くばかりだ。
虎視眈々と厩を抜ける機会を狙うミロ
猫たちが犬と元気に追いかけっこをしたり、こちらがヒヤヒヤするのも構わず厩の中を悠然と横切ったり、時にはアヒルがキャットフードをつまみ食いしたり、馬と猫が顔を突き合わせて挨拶をしたりすることもあるドイツの小さな楽園。ここではハンディキャップがあるなしに関わらず、今日も動物たちが〝生きる〟喜びをかみしめている。
ミカエラさんにワッフルをおねだり中
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文・写真 平野敦子