猫びより
【猫びより】【ハンデに負けニャイ!】ムーちゃん 大好きな人の笑顔が見える!(辰巳出版)

【猫びより】【ハンデに負けニャイ!】ムーちゃん 大好きな人の笑顔が見える!(辰巳出版)

ある朝、庭先にノラ母さんが連れてきた泥まみれの子猫。眼球は傷だらけで、全盲と診断されたものの、やってきてまもなくやんちゃを開始。元気にお気楽に大きくなった。(猫びより 2017年9月号 Vol.95より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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全盲のやんちゃ猫

庭先の紫陽花に降る雨を、さっきから網戸越しにムーちゃん(3歳♂)は飽かず「眺めて」いる。左目はなく、右目は曇っている。獣医さんの診断は「全盲」。かすかな光も見えていないはずという。音と、においと、気配と、手触りが、ムーちゃんの世界だ。

ムーちゃん(3歳♂)

「『何でも見えてるんでしょ』って、言われるんだ」

ここは、東京の下町。いろんな音やにおいのする路地の方へ行ってみたかったのか、ムーちゃんはこの前、鍵の掛かっていなかった網戸をこじ開けて脱走してしまった。飼い主の根本佳代子さん(48歳)は慌てふためいて路地を探し回ったが、ムーちゃんは玄関近くをほふく前進で探検中だった。

やってきてひと月。「障子破るのって楽しい!」

やってきてひと月。「障子破るのって楽しい!」

「もう、好奇心旺盛で、やんちゃな子猫がそのまま大きくなった感じ。私は事故だけが心配だけど、目が見えないなんて本人は何も気にしてないみたい」

佳代子さんが愛しそうにムーちゃんに顔を寄せたとたん、ムーちゃんは佳代子さんの鼻先をガブリ! 子猫の時から、何でもかじって確かめながら暮らしてきたムーちゃんにとっては、佳代子さんの鼻や指は、一番愛着とかじりがいのあるものなのだ。

保護して数日。「ここはどこ?」状態

保護して数日。「ここはどこ?」状態(写真提供・根本佳代子)

母猫から託されて

6キロ強に育ったムーちゃんを見るにつけ、佳代子さんの脳裏には、出遭った時の泥まみれではかなげな子猫の姿が浮かぶ。それは、3年前の、台風間近な10月の朝のこと。表に出ると、泥でもかぶったのか、目もぐちゃぐちゃな子猫2匹がヘたり込んでいた。ちょっと離れたところに、母猫らしき三毛猫が。界隈で暮らすノラ猫だが、どこかで出産していたらしい。

外の物音に興味しんしん。全身で世界を感じ取る

外の物音に興味しんしん。全身で世界を感じ取る

台風間近だし、このままでは、小さな命は尽きてしまう。そう思った佳代子さんは、出勤前に獣医さんに連れていくため、急ぎ子猫たちを保護。母猫はちょっと切なそうな顔をして、その様子をじっと見ていた。衰弱した子を佳代子さんに託すためにやってきたと思われた。

佳代子さんの手が遊び相手。“見えぬ敵”に「かかってこい!」

佳代子さんの手が遊び相手。“見えぬ敵”に「かかってこい!」

三毛猫の女の子の方は助からなかったが、茶白の男の子は命を取り留めた。しかし、眼球は傷だらけで、角膜には穴が開いていて、「視力なし」の診断。目の水分を再生する細胞は生きているけれど、うまく排水できず、目が巨大化してしまうという状態だった。大きく飛び出すようなら手術、ということに。ご実家で盲目の猫を飼っている獣医さんはこう言った。

「外暮らしでない限り、目が見えないことは、猫にとってさほどのハンデではありません。大丈夫、普通に暮らせますよ」

すぐに指をかじってくるので、目を拭いてやるのも一苦労

すぐに指をかじってくるので、目を拭いてやるのも一苦労

先住猫もたじたじ

ムーと名づけられた子猫は、体力がつくと、やんちゃぶりをいかんなく発揮するように。川べりの公園で保護された先住猫のきびちゃん(10歳♀)が、出合い頭に飛びかかられるのをめんどくさがって物陰に隠れるほど。嬉々として「障子破り」を楽しむムーちゃんを、佳代子さんは「こんなに元気に育ってくれて」と思うと、叱ることなんてできなかった。「ムーがあまりにも天使で可愛いので、すねないようにせっせときびのことも可愛がるんですが、そっときびを撫でていても、気配を察してすぐにムーがやってくる(笑)」。

網戸の外の小さな虫も、かすかな羽音で「見つけた!」

網戸の外の小さな虫も、かすかな羽音で「見つけた!」

ムーちゃんの小さい頃は窓越しによく様子を見に来ていた母猫は、翌春、また3匹の子猫を連れてきた。佳代子さんは、子猫たちの里親を見つけ、母猫には避妊手術を施して地域の人たちと共に面倒を見ている。

庭先で採れたミニトマトをちょいちょい。いたずらっ子は健在

庭先で採れたミニトマトをちょいちょい。いたずらっ子は健在

ひっつき虫の甘えん坊

ムーちゃんは、やってきて4ヶ月目に、巨大化した左眼球を摘出手術している。現在、右眼球は引っ込んだり飛び出したりを繰り返しているが、さほど心配はない状態だ。図体が大きくなっても、やんちゃぶりと甘えん坊ぶりは変わらず。ムーちゃんにひと声かけずにそっとトイレに行ったときなどは、さあ大変。佳代子さんの気配を見失ったムーちゃんは「どこ、どこ?」と鳴いて探し回る。台所仕事の時は、足元に。朝の出勤時も、階下におりるのを体じゅうで邪魔をする。

きびが隠れていても、すぐに見つける

きびが隠れていても、すぐに見つける

「ムーを保護した頃の私は、仕事や介護でちょっと疲れていました。ムーの無邪気さと生きるエネルギーに、気がつけば、私のほうが助けられてた。ムーを見ていると、“足りない”ことなんてまるで気にせず、そのまんまで豊かに生きている。甘え下手のきびと、甘え上手のムー。2匹ともかけがえのない人生の相棒です」

佳代子さんの笑顔も、愛情も、ムーちゃんにはちゃんと「見えて」いるのだ。生きてるって、すばらしい!

「大好きだよ、ムー」「く、くるしい……」。ムーちゃんは、この笑顔が大好きだ

「大好きだよ、ムー」「く、くるしい……」。ムーちゃんは、この笑顔が大好きだ

文・写真 佐竹茉莉子

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