フランスが誇るワインの銘醸地ブルゴーニュ。季節折々に楽しめる多彩なワインを生み出すだけではなく、ブドウ畑の美しい風景は世界遺産にも登録されている。この地で2000年、日本人として初めてのワイナリー「メゾン・ルー・デュモン」を立ち上げたのが仲田晃司(なかだこうじ)さんだ。日本人ならではの職人気質な仕事の丁寧さから、サムライと呼ばれることもある。
K6は自然の気配に興味津々
ところでこのワイナリーには、昨年の5月に研修生の家族から譲り受けた猫(♀)がいる。名前は「K6」。ケーシックス? なんとなくアイドルグループみたいだな、と思ったら、仲田さん曰く「K6はフランス語ではカシスと読めます。カシスはブルゴーニュ名産の果物だし、獣医さんも絶対にスペルを書き間違えない名前だと、家族会議で決めました」。
オフィスにて仲田さん(左)と長女レアさん。K6はレアさんの秘蔵っ子
猫や犬を飼っているワイナリーは多い。仲田さんも以前に住んでいた家では大型犬を飼っていた。「でもその子が隣の家のニワトリを食べてしまったんです。しかもそのニワトリは、隣の家の子供が可愛がっていた一羽。謝りようがなく、その子は譲ってくださった方に返さなければなりませんでした。今の家に住むようになってからは猫と縁が深いですね」。
ワイナリー敷地内のプール。K6はプールで泳いでいたこともあるのだとか
ただし仲田さんの悩みは、自宅のあるワイナリーの敷地前の道路の交通量が多いこと。田舎は放し飼いが多いので、交通事故に遭う猫も多い。仲田さんにも先代猫を交通事故で亡くした辛い記憶がある。そこでK6は普段は自宅やオフィスで過ごしているが、運動不足にならないように、広い庭やブドウ畑へはリードを付けて散歩させている。
オーガニックのブドウ畑は、環境にも人にも猫にも優しい
「猫と暮らしていると、いろいろなことに気付かされます。ワイナリーや自宅は改装していますが、元々は1850年頃に建てられた古い物件。倉庫からネズミを捕まえてきたり、夏は虫採りに夢中です。獲ったものをわざわざ見せに来るので、やっぱり田舎の古い家には、いろいろな動物がいるのだな、と驚きます。とくにハエ退治が好きなので、我が家には殺虫剤は要らなくなりました。もっともワインの仕事は、ちっとも手伝ってくれませんけれど」
丹念に仕込まれたワインが眠るワイナリーの蔵
ブドウ畑を散歩するK6の表情は精悍だ。オーガニックで手入れされているブドウ畑は動植物が豊かで、虫の羽音に耳をそばだてる。「K6はあまり人に懐かないし、都会の猫より野性的かも。まだまだ落ち着きのない子供ですね」と仲田さんは笑うが、ブドウ畑に猫がいるだけで美しい。立派なワイナリー・キャットである。
Maison Lou Dumont
32,rue Maréchal de Lattre de Tassigny
21220 Gevrey Chambertin France
(写真・文 堀 晶代)
Akiyo Hori
日仏を往復するワイン・ライター。著書に『リアルワインガイド ブルゴーニュ』(集英社インターナショナル)。大阪の自宅には拾ったメインクーンとアメショーが2匹。