手術症例(軟部外科)
11歳の犬にできた乳腺腫瘍

症例

チワワ  11歳  未避妊メス  3kg

経過

半年前に、右脇の下あたりの硬いしこりに飼い主様が気づかれました。
かかりつけの先生にみてもらいながら経過を見ていましたが、半年後に乳腺の近くにもしこりが見つかり、避妊手術と乳腺摘出を勧められたそうです。5年ほど前からてんかん発作の治療中でもあることから、飼い主様としては手術を悩まれセカンドオピニオンのために来院されました。
当院初診時、右脇の下あたりの皮下脂肪内に約5mm大のしこり、また右第4乳腺に約1.5cmx2.3cmのしこり、左第4乳腺にも約1cm大のしこり、その他にも小さなしこりを認めました。

検査所見と治療方針

当院初診時、しこりの細針吸引生検※を行ったところ、しこりはいずれも「乳腺腫瘍の疑い」という結果でした。
胸部X線検査では転移を疑う所見は認められませんでした。より詳細に調べるため、手術に先立って、CT検査が計画されました。レントゲンでは映らない、1-2mm程度のしこりも確認できます。
腹部超音波検査では卵巣嚢腫と子宮内膜の肥厚などが認められ、女性ホルモンの影響により今後も乳腺のしこりのサイズの増大や子宮疾患の悪化の可能性が考えられました。

そのため、まずはてんかん発作についてお薬の投与量を調節して症状の安定化をしつつ、避妊手術(子宮卵巣摘出)と同時の乳腺摘出術をご家族でご検討頂き、手術を実施することになりました。

乳腺腫瘍は左右両側に認められました。
左右同時の摘出も可能ですが、縫合した後の皮膚にテンションがかかるため、縫合した部分が治りにくかったり、傷が開いたりすることがあります。そのため、体格や皮膚の伸展ぐあい、また栄養状態などによって、1ヶ月程度あけて片側ずつの摘出が検討されます。

今回は、なるべく術後の生活に負担がないようにしたいという飼主様の意向もあり片側ずつの摘出を行うことになりました。

まずCT検査で乳腺腫瘍の肺転移がないか確認後、右第1乳腺のしこり部分のみの摘出と右第3,4乳腺摘出を実施し、さらに1ヶ月程度間隔をあけ左側の乳腺摘出を検討することとしました。

◯ CT検査所見
右第1乳腺領域および左右第3,4乳腺領域にしこりが見つかりましたが、幸い触診で見つけたもの以外は見つかりませんでした。

肺には乳腺腫瘍の転移を疑うしこりはありませんでした。

※細針吸引生検:細い針で細胞を採取して観察する検査。無麻酔で行えるため、外来での検査が可能です。採取できる細胞が少量のため、診断が難しい場合もあります。

手術

まず開腹し、卵巣と子宮を摘出しました。
その後、右第1乳腺のしこり部分摘出、および右第3,4乳腺全摘と隣接するリンパ節の摘出を行いました。

病理検査

◯ 子宮と卵巣
子宮は「内膜過形成・子宮腺筋症」、卵巣は「多発性嚢胞」と診断されました。

◯ 右第1,3,4乳腺
いずれも良性の「乳腺腺腫」と診断されました。
摘出したリンパ節に転移はありませんでした。

術後の経過

翌日、尻尾を振りながら院内を歩く、食事も少しずつ食べ始めるなどの様子が見られたため、なるべくリラックスできるご自宅で過ごせるように退院としました 。

退院後数日は食欲は出てきたものの落つかない様子が見られたそうですが、1週間後には元気食欲は良好となり、発作症状もなく過ごせているとのことでした。術後2週間後の検診で術創に問題ないことを確認し抜糸を行いました。

その後も発作症状はなく、左側乳腺のチェックを行いながらフォローアップを継続しています

コメント

乳腺腫瘍は早期発見・早期治療が大切です。日頃から胸からおなかにかけて触ってあげてください。もし、乳腺に「しこり」をみつけたら早めにご相談ください。

手術が必要となった時に、高齢であったり基礎疾患があると、手術を悩まれることもあると思います。手術についてはもちろんですが、術後の生活についてなど、様々なご不安な点についてお話ができたらと思っています。ぜひお気軽にご相談ください。

* 乳腺腫瘍は、2回目の発情前までの避妊手術により発生を抑制することができます。出産させるご希望がなければ、若齢期での避妊手術をお勧めいたします。

乳腺腫瘍についてのコラムはこちら

てんかん発作についてのコラムはこちら

文責:細谷芽里

タイトルとURLをコピーしました